10:それはデートなのだと、僕は知っている。
10:それはデートなのだと、僕は知っている。
翌日の朝は案の定、雅武と真理から質問攻めに遭った。
「全然、そういうんじゃないって!」
深帰人は、下世話な笑みを浮かべる雅彦たちの邪推を必死で否定する。
だが昨日、校門の前で腕を組まれて連れ去られたシーンは衝撃的だったらしく、追及の熱はなかなか収まらなかった。教室内にいるクラスメートも、なんとなくこちらに聞き耳を立てているようだ。
無理もない、と思わなくもない。クルエルを宿していた少女は、傍から見ても美少女と言える外見をしていたのだ。制服から、近くの有名女子高である三葉女子大付属高校であることも容易に類推できる。そんな者から言い寄られたような格好になっているのだから、ゴシップ的な興味が湧くのも仕方がない。自分だって、他の者と同じ立場なら、多少の興味を持ってしまうことだろう。
実際にはあの少女と「死闘」とも呼べるような戦闘をしていたのだ。そう説明しても、誰も理解してくれないのはわかっている。
深帰人はひたすら、あの少女と二度と会うことはないのだと、疑惑を跳ね除け、時間とともに雅武たちの関心が薄まるのを願った。
「ずいぶん疲れた顔してるじゃない」
昼休みの校舎裏で香菜に言われ、深帰人は「まあね」と返す。
雅武たちの追及を濁し続けたのも一つの要因だが、それが主たるものではない。原理的なことはよくわからないが、昨日おこなった戦闘の疲れを引きずっている、というのが深帰人の出した結論だ。
半零体化しているからか、筋肉痛などの肉体的な疲労は感じない。それとは別に、胸の奥から頭のてっぺんにかけて、なんとも言えない鈍痛がある。
昨日の戦闘で、深帰人はクルエルの攻撃を一発、直に食らっている。それがこの鈍痛の原因なのだとしたら……。深帰人は顔を横に向ける。
コンクリートの段差に腰掛け、盧子はぼんやりと牛乳を啜っている。
いつもと同じように光の宿らない無表情をしていた。外からは感情を読み取ることはできない。でも……と深帰人は思う。
盧子は明らかに深帰人よりもダメージを負っているはずだ。
昨日のクルエルたちとの戦いだけではない。ナスティとの戦いにおいても、盧子は自分の安全を顧みない戦い方で傷を負っている。戦闘に費やすエネルギー量だって、どう考えても盧子のほうが多い。
盧子の魂にかかっている負担を思うと、心配せずにはいられなくなる。
「盧子さん……」
盧子のキャラクター的に素っ気なく、「問題ない」と言われて終わりそうだが、それでも深帰人は問い質そうとした。
何? という感じで盧子が深帰人のほうに目を向けてくる。
「深帰人」
後方から呼ばれる声がして、深帰人は問いを投げることができないまま振り向く。
「爽太兄……?」
香菜が「ゲッ」と呻き、「生徒会長じゃん……」と小声で呟いて居ずまいを正す。
「いいかな?」
「うん、どうしたの?」
「少し……彼女と、話をさせてもらいたくてさ」
彼女、という表現に当たる人物は二人いる。だが、爽太が目線を向けた人物は、明らかに盧子のほうだった。
「えっと……」
深帰人は戸惑いを覚えながら盧子を見る。こちらのやり取りに興味なさそうに、宙空を眺めているだけの彼女に、なんと声をかければ良いのかわからない。
そんな深帰人を横目に、「自分でやるからいいよ」と爽太は盧子のほうに歩み寄り、「ちょっと、向こうで話をしない?」と切り出す。
明らかな誘い文句なのに、押し付けがましさのない自然な物言いは、いかにも全校生徒を引っ張るリーダー然としている。あるいは、そういう振る舞いができるからこそ、爽太は生徒会長になれたのかもしれない。
爽太の申し出に対し、盧子はなんの返事もせず、ふらっと立ち上がる。
どうやら、話をしたい、という申し出には応じたらしい。爽太が歩き出し、誘導する方向へ盧子もついて行く。
二人が視界から消えるまで、深帰人は見送っていた。
「心配ならついて行けば良かったじゃん」
香菜に言われ、深帰人は「心配なんて……」と首を横に振る。
「おこがましいよ」
「はあ?」
「僕より強い、彼女のことを心配するなんて」
「あの子が、深帰人よりも強い?」
「見てたらわかるでしょ。僕は防御しかできない」
香菜は「それってさ……」と首を傾げる。
「考え方ひとつなんじゃないの?」
「え?」
自明過ぎると思っていた前提に疑義を呈され、深帰人は呻いた。
「それってどういう……?」
「あ、戻ってきた」
問い直そうとした深帰人の肩越しに、香菜は目線を送った。深帰人が振り向くと、盧子が一人、こちらへ歩いてくる。隣に爽太の姿はない。
相変わらずの無表情からは何も読み取ることはできない。
深帰人が知っている爽太の人柄を考えれば、人道に外れた言葉を浴びせられたということはないだろう。だが、一つだけ気がかりなことがあった。
「何を言われたの?」
「今度の土曜、二時にドリームポーターズの入口前に来て欲しいって」
「ドリームポーターズって……」
それは翆玲市では有名な巨大ショッピングモールだった。中心となる巨大ビルには映画館やボーリング場などのアミューズメント施設が入っており、そのすぐ近くには観覧車やジェットコースターなどを備えた中規模の遊園地も敷設されている。
「それってもしかして、ででで、デ……」
深帰人には恐れ多く、その言葉を口にすることができない。
「つまり、盧子は生徒会長からデートに誘われたってことでしょ」
深帰人の言葉を引き継ぐように香菜が言う。
盧子の答えは「知らない」だった。
爽太は「デート」という言葉を口にしなかったのかもしれない。ならば、盧子は字面通りに決められた場所で待ち合わせることだけを了解したのだろう。誘われた盧子は「これはデートなのか?」などと解釈にまで思考を及ばせるようなことはしない性格だ。
「それで……行くの?」
深帰人の問いに、盧子は「行かない理由がない」と素っ気なく返すと、「教室に戻る」と言い残して、その場を去った。
盧子にその気はなくても、これはデートなのだ。
深帰人の気がかりが的中した。
爽太は以前、盧子のことを見て、「彼女、なんというか、素敵な目をしているね」と言っていた。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
校内に響く鐘の音が、なぜか深帰人の胸の奥を小さく震わせているような気がした。
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