第98話「SNSの異変」
その夜。
凛と美波は再び調査を始めた。SNS、フリマアプリ、記録の拡散状況。
Xを開く。「#73」のハッシュタグ。
投稿数はさらに増えていた。24時間で8,000件以上。
「増えてる……」美波が呟いた。「昨日は5,000件だったのに……加速してる……」
凛もそれを感じた。記録は指数関数的に広がっている。止められない勢いで。
投稿の内容も変化していた。
最初は「幸せです」「一人じゃない」というような個人的な感想だった。
でも今は――
「集会のお知らせ」「オフ会開催」「新しい仲間を募集」
という組織的な動き。計画的な拡散。
「これ見て」美波が一つの投稿を開いた。
「12月10日 午後7時3分渋谷スクランブル交差点にて第73回 記録者の集会を開催します参加者:730名予定テーマ:完全な記録への道持ち物:5つのメディアハッシュタグ:#73 #記録 #永遠」
「730名……」凛が息を呑んだ。「73の10倍……」
「そして」美波が指摘した。「日時も7時3分……参加者も730名……すべてが73……」
凛はゾッとした。完全に73という数字に支配されている。
思考も。行動も。すべてが。
「他の都市も調べよう」美波が言った。
二人は位置情報を頼りに日本各地の投稿を探した。
大阪。名古屋。福岡。札幌。すべての主要都市で同じような集会が予定されていた。
そして必ず73の倍数の参加者。
「明後日……」凛が呟いた。「12月10日に何かが起こる……」
「5つのメディアを持ち寄るって書いてある」美波が画面を指差した。
「完全な記録への道……」
「まさか――」凛の顔が青ざめた。「集団で上書き消去するつもり? いや、違う……集団で完全な記録を目指すつもりなのか……」
美波が画面をスクロールする。コメント欄を見る。
「楽しみです。73」
「みんなで永遠になりましょう。73」
「個を捨てて、全体になる。73」
すべてのコメントに73。すべての投稿に73。
「これは……」美波が震えた声で言った。「もう止められないかもしれない……」
「でも」凛が言った。「私たちはやる。5つ集めて上書き消去する。そして方法を見つけて、みんなを助ける」
窓の外で雨がまだ降り続けている。冷たい冬の雨。
でも凛の心には決意があった。
あと2日。MDが届くまであと2日。
そして12月10日。運命の日。




