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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第四章「カセットテープの記録」
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第96話「夢の中の防音室」

凛はベッドに横になった。目を閉じる。


美波の作った逆位相音が部屋に流れている。それに包まれながら凛は眠りに落ちていった。


そして――夢を見た。


防音室の夢。


グレーの壁。吸音材が規則正しく並んでいる。グランドピアノ。黒い巨大な楽器。


でも今回は――ピアノの前に二人の女性が座っていた。


一人は真理子。もう一人は美咲。


母と娘。


二人とも白いワンピースを着て並んで座っている。まるで双子のように。


「凛……」真理子が振り向いた。微笑んでいる。


「ようこそ。私たちの世界へ」


「ここに来ないで……」凛が言った。


でも足が勝手に動く。抗えない力で。ピアノに近づいていく。


「大丈夫」美咲が微笑んだ。14歳の少女の無邪気な笑顔。


「怖くないよ。ここはとても幸せな場所。一人じゃないから。お母さんとずっと一緒にいられる」


真理子が美咲の頭を撫でた。優しく。愛情を込めて。


「そうよ。私たちもう離れない。永遠に一緒。記録の中で」


凛はそれを見て何かがおかしいと感じた。


幸せそうに見える。母と娘が一緒にいる。


でもどこか違和感がある。


真理子の表情。完璧すぎる微笑み。


美咲の目。光がない目。


それらは本当に彼女たちなのか。それとも記録という別の何かなのか。


「凛も――」真理子が手を伸ばした。白い手。


「こっちに来て。お父さんも待ってるわよ。隆もここにいる。みんな一緒」


「お父さん……?」


凛が周りを見回した。


すると――部屋の隅に一人の男性が立っていた。


佐々木隆。凛の父。


「凛……」隆が優しく微笑んだ。「久しぶりだね。いや、初めまして、かな。会ったことはなかったもんね」


凛の目から涙が溢れた。止められない涙。


「お父さん……」


「こっちにおいで。一緒にいよう。ずっとずっと。永遠に」


隆が手を伸ばした。


凛はその手を掴みそうになった。父の手。温かそうな手。


でもその瞬間――


「凛!」


別の声が聞こえた。美波の声。現実からの声。


「起きて! それは罠よ!」


凛はハッと我に返った。

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