第93話「8mmフィルムの到着」
12月9日 火曜日 午前10時。
ピンポーン――
最後の配達。8mmフィルム。
凛はドアを開けた。配達員が立っている。同じ無表情。まるで記録された人のような。
「佐々木様ですね」
「はい」
「こちら、お届けものです」
封筒を受け取る。少し重い。フィルムだから。金属のリールが入っているから。
「ありがとうございました」
配達員が去る。足音が階段を降りていく。規則的な足音。機械的な足音。
凛は封筒をじっと見つめた。
これで4つ。
VHS。カセット。MD。そして8mmフィルム。
あと1つ――フロッピーディスクは既に持っている。でもまだ見ていない。データとして確認しただけ。
つまりあと2つ。フロッピーと8mmフィルム。これらを見れば5つ揃う。
部屋に戻る。美波が心配そうに見ている。
「届いた……」
「うん……」
凛は封筒をテーブルに置いた。重い音。「ドン」という音。
「今日見る?」美波が聞いた。
凛は迷った。昨日MDを見て心拍数が84になった。これ以上見たらどうなるか。
でも時間がない。
明日は12月10日。全国で記録者の集会が開かれる日。SNSの投稿で見た。73人ずつ集まる集会。
何かが起こる。その前に5つ揃えて上書き消去しなければ。
「見よう」凛が決めた。「今日8mmフィルムを見る。そして明日フロッピーを見る。5つ揃えて上書き消去する」
美波は頷いた。「分かった。でも慎重にね。心拍数が73を超えたらすぐ止める」
凛は封筒を開けた。中には8mmフィルムのリール。小さな金属製のリール。そして紙が一枚。
「このフィルムを再生するには8mmプロジェクターが必要です。またはデジタル変換サービスをご利用ください」
凛と美波は顔を見合わせた。
「プロジェクター……持ってない……」
「大学に」美波が言った。「映像学科にあるかも」
「行ってみよう」
二人はすぐに大学に向かった。外は冷たい雨。傘を差して歩く。「ザーザー」という雨音。
バスに乗る。窓の外を見る。灰色の街。灰色の空。
でも凛の心には希望があった。5つ揃えれば元に戻れる。美咲を解放できる。




