第79話「夜の幻聴」
午後11時。
凛はベッドに横になった。美波はソファで休んでいる。
部屋の明かりを消す。暗闇。静寂。
でも――完全な静寂ではない。
耳の奥で何か聞こえる。
低い音。
ブーーーーーン……
73Hz。
また始まった。
「また……」
凛が呟いた。
美波がすぐに起きた。「ガバッ」という音。
「凛?」
「また聞こえる……」
「逆位相音、流すね」
美波はノートパソコンを開いた。画面の光が暗闇を切り裂く。
スピーカーから逆位相音が流れ始める。
でも、音は完全には消えない。小さくなるが、まだ残っている。
「効果が弱くなってる……なぜ?」
美波が焦った。
「たぶん――」
凛が答えた。
「記録が進行してるから。VHSを見た影響が時間と共に強くなってる」
美波はすぐに調整を始めた。逆位相音の周波数、振幅、位相。
すべてを微調整していく。キーボードを叩く音。「カタカタカタ」という焦りの音。
30分後。ようやく音が消えた。
「これで、どう?」
「うん……消えた……」
凛が答えた。でも疲れ切った声だった。
「ごめんね、凛」
美波が申し訳なさそうに言った。
「私の技術じゃ、完全には防げない……」
「ううん」
凛が首を振った。
「美波のおかげで、ここまでもってる。ありがとう」
美波は複雑な表情をした。
逆位相音はあくまで対症療法。根本的な解決じゃない。時間稼ぎに過ぎない。
「早く――」
美波が呟いた。
「フロッピーディスクを解析しないと。そこに答えがあるかもしれない」




