第77話「記録された人々の行動」
凛と美波はさらに調査を続けた。
記録された人々がどんな行動を取っているのか。
SNSの投稿から、パターンが見えてきた。
第一段階:視聴直後
購入者はVHSを見た直後、SNSに投稿する。
「素晴らしい体験でした」
「人生が変わりました」
「幸せです」
そして必ず「73」を付ける。
第二段階:布教活動
数日後、彼らは友人に勧め始める。
「あなたも見るべき」
「絶対に後悔しない」
「人生が変わるよ」
そしてフリマアプリで自分も出品を始める。
第三段階:集会
1週間後、オフ会を開催する。必ず73人単位で。
そこで新しいメディアを交換する。VHS、カセット、MD、フロッピー、8mmフィルム。
すべてを集めようとする。
第四段階:完全な記録
5つすべてを手に入れた人は投稿が変わる。
「完成しました」
「私は永遠になりました」
「もう私ではありません」
「私たちです」
そしてその後、投稿が止まる。完全に個が消える。
「怖い……」
凛が呟いた。
「第四段階まで行った人、どうなるの?」
美波が該当するユーザーを探した。5つすべてを集めたと投稿している人。
何人か見つかった。そして彼らの最後の投稿を見た。
ユーザー名:hiroshi_1987
最後の投稿:11月25日
「5つすべて揃いました。今から同時再生します。さようなら、私。こんにちは、私たち。73」
その後、投稿なし。アカウントも削除されていた。
ユーザー名:ayaka_1999
最後の投稿:11月28日
「完成。私は消えます。でも消えません。みんなの中で生き続けます。73」
その後、投稿なし。こちらもアカウント削除。
「みんな――」
美波が震えた声で言った。
「アカウント消してる……なぜ?」
「たぶん――」
凛が答えた。
「もう必要ないから。個人として存在しなくなったから。SNSも必要ない。自我が消えたから」
美波はゾッとした。背筋に冷たいものが走る。
「じゃあ、彼らは今、どこに? 何してる?」
凛は分からなかった。
でも、一つだけ確かなことがある。
彼らはもう彼らじゃない。
画面の向こうで、何千、何万という人々が個を失い、集合意識の一部になっている。
そしてその数は、今この瞬間も増え続けている。
部屋は静かだった。だが、その静寂は重く、不吉だった。




