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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第三章「侵食の始まり」
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第75話「進行する侵食」

凛は怖くなった。全身に鳥肌が立つ。


逆位相音があれば大丈夫だと思っていた。


でも、まだ進行している。ゆっくりと。確実に。


「美波」


凛が震える声で言った。


「私、このまま記録されちゃうの?」


美波はしばらく黙っていた。数秒間の沈黙。


そして言った。


「分からない。でも、まだ諦めない」


彼女はノートパソコンを見た。


「逆位相音をもっと強化する。周波数を微調整する。必ず止める」


美波はすぐに作業を始めた。音響解析ソフトを起動する。


凛の脳波パターンを再分析する。そして新しい逆位相音を生成する。


午前1時。午前2時。午前3時。


美波はずっと作業を続けた。画面の光が彼女の顔を照らしている。


凛はその隣でぼんやりと座っていた。


頭の中ではまだ声が聞こえる。


「凛……こっちに来て……お父さんが待ってるわよ……」


凛は耳を塞いだ。でも聞こえる。内側から。脳の奥底から。


「できた」


美波が言った。


「新しい逆位相音。これを試してみよう」


凛は頷いた。


美波が再生ボタンを押す。「カチッ」という音。


スピーカーから音が流れる。人間の耳にはほとんど聞こえない。


でも確かにそこにある。空気の振動として。


凛はじっと耳を澄ました。


頭の中の声。少しずつ小さくなっていく。


「凛……」 「来て……」 「……」


声が消えた。完全に消えた。


「効いてる……」


凛が呟いた。


「本当に?」


「うん。声が消えた」


美波が安堵のため息をついた。


「良かった……心拍数も測ってみて」


凛は再び脈を測った。


ドクン…ドクン…ドクン…


15秒で17回。1分で68回。


「68……」


凛が言った。


「戻った……」


美波が微笑んだ。でもすぐに顔が曇った。


「良かった。でも、これは一時的かもしれない。記録の影響は時間と共に強くなる。だから早く5つのメディアを集めて、根本的な解決を見つけないと」


凛は頷いた。


「フロッピーディスク、明後日届く。それまで待とう」

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