第74話「夜の異変」
12月2日 火曜日 午後11時
凛と美波は凛の部屋に戻っていた。
一日中調査を続けた。疲れていた。目が重い。肩が凝っている。
でも眠れない。
頭の中が73という数字でいっぱいだった。
凛はベッドに横になった。目を閉じる。
でも、すぐに音が聞こえてきた。
低い音。
ブーーーーーン……
73Hz。
また、あの音。耳の奥から響いてくる。
「また……」
凛が呟いた。
「また聞こえる……」
美波がすぐに起き上がった。ベッドがきしむ音。
「逆位相音、流そう」
彼女はノートパソコンを開いた。スピーカーから逆位相音が流れ始める。
でも――音は消えない。
むしろ、大きくなっている気がする。頭蓋骨の内側で反響しているような。
「おかしい……」
美波が焦った。
「昨日は効いたのに……なぜ……」
凛は耳を塞いだ。両手で強く押さえる。
でも、音は止まらない。
頭の中から聞こえている。外からじゃない。内側から。
「凛……」
声が聞こえた。
誰の声?
「凛……こっちに来て……」
女性の声。若い声。透明な響き。
「美咲……?」
凛が呟いた。
「そう、私よ……美咲があなたを呼んでる……一緒に来て……こっちは幸せよ……一人じゃないから……」
凛は頭を振った。「ブンブン」と激しく。
「やめて……来ないで……」
でも、声は続く。優しく、誘うように。
「お父さんもいるわよ……隆もここにいる……会いたくない?」
凛の心が揺れた。
父。会いたい。話したい。抱きしめてほしい。
でも――それは罠だ。記録の罠。
「凛!」
美波が凛の肩を揺さぶった。強く。
「しっかりして! これは幻聴! 記録の影響!」
凛はハッと我に返った。
美波の顔が目の前にある。心配そうな顔。眉間に皺が寄っている。
「ごめん……」
凛が言った。
「大丈夫……?」
「うん……」
でも本当は大丈夫じゃない。
逆位相音を使っても、まだ影響が残っている。なぜ?
「心拍数、測ってみて」
美波が言った。
凛は自分の手首に指を当てた。橈骨動脈。脈を測る。
ドクン…ドクン…ドクン…
数える。15秒で18回。いや、19回?
計算する。1分で――
「76……」
凛が呟いた。
「73じゃない……でも、昨日は68だった……上がってる……」
美波の顔が青ざめた。血の気が引いている。
「記録が進行してる……VHSを見た影響がまだ残ってる……逆位相音では完全には防げない……」




