第73話「美波の決意」
「やばい……」
美波が呟いた。声が震えている。
「これ、本当にやばい……」
彼女はノートパソコンを開いた。キーボードを叩く音。「カタカタカタ」という連続音。
データを整理し始める。
「何してるの?」
凛が聞いた。
「統計取ってる。購入者の増加率、拡散のパターン。このままいくと――」
彼女はグラフを作った。画面に曲線が描かれる。
指数関数的な曲線。急激に上昇している。恐ろしいほどの傾き。
「1ヶ月で約2,000人。このペースだと、3ヶ月後には2万人、半年後には20万人、1年後には――」
美波が震えた声で言った。
「200万人以上……」
凛は言葉を失った。
200万人。それだけの人が記録される。個を失う。73Hzに支配される。
「でも――」
凛が言った。
「逆位相音があるでしょ。あれを広めれば――」
美波は首を振った。
「無理」
「なぜ?」
「逆位相音は個別に調整が必要。一人ひとり、脳波のパターンが違う。だから、VHSを見た人全員に個別の逆位相音を作る必要がある」
美波が画面を指差す。無数の波形データ。
「でも、それは物理的に不可能」
凛は絶望しかけた。胸が苦しい。呼吸が浅くなる。
でも、すぐに思い直した。
「なら、5つのメディアを集める。そして上書き消去の方法を見つける。それしかない」
美波はしばらく考えて、そして頷いた。
「そうだね。フロッピーディスクが届くのを待とう。そこにもっと詳しい情報があるかもしれない」
凛は窓の外を見た。
空はどんより曇っている。灰色の雲が低く垂れ込めている。
雨が降りそう。いや、雪かもしれない。
12月。冬の始まり。
そして、この戦いの本当の始まり。




