第72話「感染の拡大」
凛と美波はさらに調査を続けた。
購入者のSNS。そこから辿れる友人関係。
すると――驚くべきことが分かった。
購入者たちは現実世界でも繋がり始めていた。
12月1日。東京・渋谷。
kana_1992の投稿:
「今日、オフ会しました。みんな素敵な人たちでした。73人集まりました。73 #オフ会 #記録仲間」
写真には73人の人々。
全員が同じような微笑み。同じような虚ろな目。
そして全員が手に持っている。
VHSテープ。カセットテープ。MD。フロッピーディスク。8mmフィルム。
さまざまな記録メディア。まるで宝物のように。
「73人……」
凛が呟いた。
「また、この数字……」
美波が拡大写真を見た。そして気づいた。
「凛、これ見て」
「何?」
「この人たち、みんな同じ服装してる」
確かに――全員が白いシャツ、黒いパンツ。まるで制服のように。
「それに立ち位置も規則的。7列×11列……」
「7×11=77?」
「いや、待って」
美波が数え直した。指で画面をなぞる。
「73人。素数だ……これ、偶然じゃない。意図的に73人集めてる」
凛の背筋が凍りついた。
73という数字に支配されている。
心拍数。購入者の数。集会の人数。
すべてが73。
「他の都市も調べよう」
美波が言った。
二人は位置情報を頼りに日本各地の投稿を探した。
大阪。名古屋。福岡。札幌。
すべての主要都市で同じようなオフ会が開かれていた。
そして必ず73人。
「全国で――」
美波が計算した。
「主要都市10ヶ所として、73×10=730人。でも評価は127件。矛盾してる……」
「いや」
凛が気づいた。
「評価してない人もいるんだ。購入しても評価しない人。そう考えると、実際の購入者はもっと多い」
美波がフリマアプリの統計を見た。
「marie_1985の総販売数……」
彼女の顔が真っ青になった。声が震える。
「1,825個……」
「え?」
「VHS、カセット、MD、フロッピー、8mmフィルム。5種類×365個ずつ」
「365……」
凛が呟いた。
「1年の日数……1日1個ずつ、1年間売り続けたら、この数になる」
「でも――」
美波が登録日を確認した。
「marie_1985の登録日、2024年11月1日。まだ1ヶ月しか経ってない……なのに1,825個? 1日60個以上? そんなの一人じゃ無理……」
二人は顔を見合わせた。
marie_1985は一人じゃない。
複数人。いや、もっと多くの人が同じアカウントで出品している。
記録された人たちがみんなで記録を広げている。
組織的に。計画的に。
感染は加速していた。




