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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第三章「侵食の始まり」
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第68話「大学院での一日」

午前10時。


凛と美波は大学に向かった。


凛は大学院生。修士課程1年。専攻は心理学。特に記憶と意識の研究。


皮肉なことに、今自分が直面している問題と同じテーマだった。


研究室に着く。ドアを開ける。


「おはよう、佐々木さん」


指導教官の山本教授が声をかけた。60代の女性。記憶研究の第一人者。白髪混じりの髪を後ろでまとめている。


「おはようございます」


凛が頭を下げる。


「最近様子が変だったけど、今日は元気そうね」


「はい、少し体調を崩してましたが、もう大丈夫です」


山本教授は凛をじっと見て、そして頷いた。


「そう。良かった。ところで、研究進んでる?」


凛の研究テーマは「記憶の転写可能性について」。


まさに――柳沢正臣の研究と同じ。


でも凛は、それを知らずにこのテーマを選んでいた。


運命? それとも、何か別の力?


「はい。文献調査を進めています」


「そう」


山本教授が言った。


「実は、面白い論文を見つけたの。あなたの研究に関係あるかも」


教授は一枚のコピーを渡した。


凛はそれを受け取った。手に取る。ザラザラした紙の感触。


タイトルを見る。


『音響パターンによる意識情報の記録と転写の可能性』


著者:柳沢正臣


1997年発表。


凛の手が震えた。紙がかすかに揺れる。


「これ……」


「知ってる?」


山本教授が不思議そうに見る。


「いえ……」


凛は嘘をついた。


「初めて見ます」


「そう。この論文はね、学会で完全に否定されたの。疑似科学だって。でも、理論自体は面白い。読んでみるといいわ」


「ありがとうございます」


凛はその論文を握りしめた。


父が研究していた、あの理論。その元になった論文。


これを読めば、もっと詳しく理解できるかもしれない。

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