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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第三章「侵食の始まり」
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第67話「朝食の異変」

凛は卵を焼いた。フライパンに油を引く。「ジュー」という音。卵が白く固まっていく。


トーストを焼いた。トースターに入れる。2分後、「チン」という音。


コーヒーを淹れた。お湯を注ぐ。香ばしい香りが立ち上る。


いつもの朝食。でも今日は二人分。美波の分も。


テーブルに並べる。その時――美波が起きてきた。


「おはよう、凛」


寝癖のついた髪。眠そうな目。


「おはよう」


「わあ、朝ごはん作ってくれたの?」


「うん」


「ありがとう!」


美波が嬉しそうに席に着く。二人で食べ始める。


凛は卵を口に運んだ。フォークで切る。柔らかい食感。


噛む。


そして――味がした。


「あ……」


凛が思わず声を上げた。


「どうしたの?」


美波が心配そうに見る。


「味が――味が、する」


凛は驚いていた。目を見開いている。


ここ数日、いや数週間、何を食べても味がしなかった。すべてが無味だった。


でも今――卵の味がちゃんと分かる。


塩の味。微かな塩気。


バターの香り。濃厚な香り。


卵の甘み。優しい甘さ。


すべてが鮮明に感じられる。


「良かったね」


美波が微笑んだ。


「逆位相音、効いてるんだよ。73Hzの影響がなくなったから、感覚も戻ってきたんだ」


凛は涙が出そうになった。目頭が熱くなる。


味が戻った。こんなに嬉しいなんて。


当たり前のことが、どれだけ大切か。失って初めて分かった。


「美波」


凛が言った。


「本当にありがとう。あなたのおかげで、私助かった」


美波が少し照れくさそうに笑った。


「当たり前でしょ。友達だもん」


二人は朝食を食べ続けた。


久しぶりに食事が美味しい。トーストのサクサクした食感。コーヒーの苦み。


生きている実感がある。


でも――凛の心の奥底では、何か小さな違和感がまだ残っていた。


洗面所で見た、あの微かな違和感。


それは消えていなかった。

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