第65話「新しい朝」
12月1日 月曜日 午前7時
凛は目が覚めた。
いつもと違う朝。昨夜美波は凛の部屋に泊まっていった。遅くまで話していたから。
そして今、隣で美波が眠っている。穏やかな寝顔。
凛はそっと起き上がった。美波を起こさないように。
窓を開ける。外の空気を吸う。
冷たい。肺に突き刺さるような冷たさ。
でも――心地いい。
12月の朝。冬の始まり。
でも、凛の心は温かかった。
もう一人じゃない。美波がいる。一緒に戦ってくれる友達が。
そして、父の愛も知った。母の愛も知った。
凛はもう孤独じゃない。
心拍数を測ってみる。手首に指を当てる。
ドクン…ドクン…ドクン…
数える。15秒で17回。つまり、1分で68回。
73じゃない。正常だ。
昨夜、美波と一緒にもう一度VHSテープを見た。でも今度は逆位相音を流しながら。
結果――心拍数は変わらなかった。73Hzの影響を完全にブロックできた。
凛は助かった。記録から解放された。
でも、これは始まりに過ぎない。
本当の戦いはこれから。
他の人たちを助けるために。記録を止めるために。73Hzの世界を終わらせるために。
凛は窓の外を見つめた。
朝日が昇り始めている。オレンジ色の光が雲を染めている。
新しい日が始まる。そして、新しい戦いが始まる。
でも、もう怖くない。一人じゃないから。
美波がいる。母がいる。
そして、父の愛がある。記録の中の父の声が、いつも凛を見守っている。
「行こう」
凛が呟いた。
「戦おう。この記録と。そして――みんなを助けよう」
後ろで気配がした。
振り返ると、美波が起きていた。寝乱れた髪。眠そうな目。
「おはよう、凛」
「おはよう、美波」
「準備できた?」
美波が微笑んだ。
「うん」
「じゃあ――行こう」
二人は顔を見合わせて頷いた。
今日から、本当の戦いが始まる。
柳沢正臣の研究を調べる。記録のメカニズムを解明する。そして、止める方法を見つける。
長い戦いになるだろう。困難な戦いになるだろう。
でも、二人なら――きっとできる。
記録を止められる。73Hzの世界を終わらせられる。
そして、すべての人を解放できる。
凛はそう信じていた。
窓の外で、朝日が完全に昇った。
新しい日が、始まった。




