第62話「逆位相音の完成」
午後10時。
美波はついに完成させた。
「できた……」
彼女が呟いた。声に疲労と達成感が混ざっている。
「本当に?」
凛が身を乗り出す。
「うん」
美波が画面を見せた。
そこには二つの波形。
一つはVHSテープから録音した73Hzの信号。もう一つは美波が生成した逆位相の音波。
二つの波形が完璧に反転している。山と谷が正反対。まるで鏡に映したかのように。
「これを同時に再生すれば、理論上は打ち消し合う。つまり――73Hzの影響を受けなくなる」
凛の目が輝いた。
「試してみよう」
「待って」
美波が止めた。
「いきなりは危険。まず私で試す」
「え?」
「私、まだ完全には記録されてない。テープは途中までしか見てない。だから、まず私が最後まで見る。その時、逆位相音を流す。効果があれば、私の心拍数は73にならない」
「でも危険だよ」
凛が心配そうに言った。
「大丈夫」
美波が自信を持って言った。
「データは完璧。必ず効く。そして、これが効けば、凛も助かる」
凛は美波の決意を見た。
この人は本当に――命を懸けて助けようとしてくれている。
「分かった。でも、何かあったらすぐ止める。約束して」
「約束する」
美波が頷いた。
そして――準備を始めた。
VHSデッキにテープを入れる。「ウィーン」というモーター音。
ノートパソコンには逆位相音のファイルを準備する。
そして、スピーカーをセットする。すべての準備が整った。
「行くよ」
美波が言った。
凛は美波の手首を握った。脈を測るため。
「今の心拍数は?」
凛が聞いた。
美波が自分で測る。
「68。普通だね」
「うん」
美波が深呼吸をした。
「じゃあ――始める」
彼女は同時に二つのボタンを押した。
VHSの再生ボタン。そして、逆位相音の再生ボタン。




