第58話「母の告白」
「お母さん、知ってたの?」
凛が聞いた。
「何を?」
「VHSテープのこと。お父さんの記録のこと。柳沢正臣の実験のこと。すべて」
母は長いため息をついた。電話越しでも、その重さが伝わってきた。
「知ってたわ。いつか――あなたが見つけると思ってた」
「なぜ教えてくれなかったの?」
「教えられなかった」
母の声が震えた。
「あなたを――守りたかったから。あの実験から。記録から。73Hzから。すべてから」
凛は涙が出そうになった。目頭が熱くなる。
母はずっと守ろうとしていた。何も知らせずに。普通の人生を送らせようとしていた。
でも――凛は見てしまった。テープを。父の記録を。
「ごめんなさい、お母さん」
凛が言った。声が震えている。
「見ちゃった。お父さんの声――聞いちゃった」
母が泣いている音が聞こえた。すすり泣く声。
「そう……やっぱり……あなたも――記録されたのね」
「まだ分からない」
凛は言った。
「美波が今、対策を考えてくれてる」
「美波さん?」
「友達。情報工学専攻で、音響解析が得意なの」
母が少し安心したような声になった。
「そう……一人じゃないのね」
「うん」
「良かった」
母が言った。
「美月ちゃんを失ってから、ずっと心配してた。また一人になってしまったって。でも――新しい友達ができたのね」
「うん」
凛は美波を見た。美波は作業を続けながらも、こちらを気にかけてくれている。
「お母さん」
凛が聞いた。
「お父さんは――どうなったの? 記録された後――」
母が深く息を吸った。そして、話し始めた。




