表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/131

第50話「美咲の演奏」

画面の中の美咲が演奏を始めた。


凛にはその曲が分かった。


ドビュッシー「月の光」。


美しい旋律。だが、その美しさはどこか狂っていた。


演奏は完璧だった。完璧すぎる。人間の演奏ではない。機械のような正確さ。


一つのミスもない。一つの揺らぎもない。リズムは寸分の狂いもなく刻まれ、音の強弱は計算されたように正確だ。


そして――美咲の表情が変わっていく。


最初は恐怖だった。目を見開いて、唇を噛んで、必死に耐えている表情。


だが徐々に――諦観に変わる。


目の光が失せていく。感情が抜けていく。


そして、何か別の感情に。


それは――恍惚? いや、違う。


これは狂気。


美咲は狂い始めていた。


そして――演奏に別の旋律が混ざり始めた。


「とおりゃんせ」


日本の童謡。子供たちが遊びで歌う、あの歌。


行きはよいよい 帰りはこわい


二つの旋律が絡み合う。西洋と東洋。クラシックと童謡。生と死。


すべてが混じり合って、新しい何かになっていく。


不協和音のはずなのに、不思議と調和している。まるで最初からそう作曲されていたかのように。


凛はその音楽に引き込まれていった。


耳が離せない。目が離せない。


まるで催眠術にかけられたかのように。スクリーンの中の美咲の指が、凛の意識を支配していく。


「凛……」


美波が凛の腕を掴んだ。その手は温かい。だが、その温もりすら遠く感じる。


「しっかりして……もう影響出てる……」


でも――凛は止められない。見続けてしまう。聞き続けてしまう。


そして――心臓がリズムを変え始めた。


ドクン…ドクン…ドクン…


一定のリズム。画面の中の音楽と同期していく。


美波が凛の手首を掴んだ。橈骨動脈に指を当てる。脈を測る。


数秒後、美波の顔が青ざめた。


「やばい……」


美波が呟いた。


「凛の心拍数――73になってる……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ