第45話「美波の到着」
午後2時。
ピンポーン――
インターホンが再び鳴った。
凛はドアを開けた。
美波が立っていた。両手に大きな荷物を抱えている。息を切らしている。
「重かった……」
美波が言った。額に汗が浮かんでいる。11月末の寒い日なのに。
「ごめん、ありがとう」
凛が荷物を受け取る手伝いをする。二人で部屋に運び込んだ。
荷物は二つ。
一つは14インチのブラウン管テレビ。もう一つはVHSビデオデッキ。
どちらも20年以上前の製品。表面に埃が積もっている。
「実家の物置にあった」
美波が説明した。
「お父さんが昔使ってたやつ。もう何年も使ってないけど」
「まだ動く?」
「たぶん。とりあえず試してみよう」
二人で機器をセットアップし始めた。
ブラウン管テレビを机の上に置く。「ドン」という重い音。重い。10キログラム以上ある。
スマートフォンに慣れた身体には信じられない重さ。これが、昔の「普通」だったのだ。
次にVHSデッキ。これも重い。テレビの下に置く。
そして――ケーブルで接続する。
RCA端子。赤、白、黄色のケーブル。音声L、音声R、映像。
美波が慣れた手つきで接続していく。
「できた」
美波が言った。
「電源、入れてみよう」
凛がテレビの電源ボタンを押した。「カチッ」という機械的な音。
数秒間――何も起こらない。
そして――
ブーーーーン
低い音。トランスの唸り声。50Hzの商用電源が作り出す振動。
画面がゆっくりと明るくなっていく。まるで生き物が目を覚ますかのように。
そして――砂嵐。
シャーーーーーー
ホワイトノイズが部屋に響く。ランダムな白黒の点が画面を覆っている。
「成功」
美波が微笑んだ。
「ちゃんと動いた」
次にビデオデッキの電源を入れる。
これもブーーーーンという音。そして、表示パネルが光る。
「00:00」
緑色のデジタル数字が点滅している。
「これで準備完了」
美波が言った。
「あとは――テープを入れるだけ」
凛はVHSテープを手に取った。「呪い」と書かれたテープ。
そして、ビデオデッキの挿入口にそっと差し込んだ。
ウィーーーン――
モーターの音。テープがゆっくりと機械の中に吸い込まれていく。
まるで、何かが凛を呑み込もうとしているかのように。
機械の中に消えていくテープ。
そして――「カチャン」という音。テープが完全に挿入された音。




