第44話「再生機器の問題」
凛はVHSテープを机の上に置いた。「コトン」という音。
そして――問題に直面した。
再生する機械がない。
VHSデッキ。ブラウン管テレビ。どちらも持っていない。
2004年生まれの凛にとって、VHSは過去の遺物だ。実物を見たのも、数えるほどしかない。
どうすればいい?
誰かに借りる? でも、誰に?
凛はスマートフォンを取り出した。LINEを開く。
連絡先をスクロールする。友達リスト。だが、VHSデッキを持っている人など、いるだろうか。
そして――一人の名前で指が止まった。
美波。
彼女なら、何か方法を知っているかもしれない。情報工学専攻。機械に詳しい。
でも――美波は言った。「見ない方がいい」。
それなのに、再生機器を貸してくれと頼むのはおかしい。
凛は迷った。画面を見つめたまま、何分も。
でも――他に方法がない。
凛は美波にメッセージを送った。
「おはよう。突然ごめん。VHSデッキ、持ってる人知らない?」
送信ボタンを押す。「シュッ」という音。
既読。すぐに「既読」がついた。
返信が来た。
「おはよう。もしかして、そのテープ……届いたの?」
凛は少し躊躇してから答えた。
「うん」
「やっぱり……見るの?」
「うん」
数秒の沈黙。LINEの画面に「入力中...」と表示される。
そして――
「分かった。実家に古いのがあるかも。今から確認してみる」
「ありがとう」
「でも、凛。本当に見るの?まだ引き返せるよ」
凛はしばらく考えた。そして、返信した。
「見る。父の声があるかもしれないから」
「お父さん……?」
「このテープには父の記録も入ってる。1999年12月3日。父が失踪する前の記録」
「そうなんだ……分かった。じゃあ、一緒に見よう」
「え?」
「一人で見るのは危険。私も立ち会う。何かあったら、すぐ止める」
凛の胸が熱くなった。目頭が熱くなる。
美波は本当に優しい。危険だと分かっているのに、一緒にいてくれる。
「ありがとう。でも、危なくない?」
「大丈夫。私、情報工学専攻でしょ。音響解析とか得意だし。もし本当に73Hzの信号があったら、検出できるかも」
「分かった。じゃあ、お願いします」
「うん。実家に確認したら、また連絡する」
「ありがとう」
凛はスマートフォンを置いた。
そして――VHSテープをもう一度手に取った。
これを今日見る。美波と一緒に。
そして、父の声を聞く。26年前の父の声を。
凛はそのテープを胸に抱きしめた。
冷たい。プラスチックの冷たさが、服越しに伝わってくる。
でも――その冷たさの奥に、何か温かいものがある気がした。
父の温もり。




