表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/133

第43話「開封」

凛はカッターナイフを取り出した。引き出しから。刃を出す。「カチッ」という音。


段ボール箱のガムテープを切る。


ザクッ――


刃がテープを裂く音。その音が、妙に生々しく聞こえた。まるで何かの皮膚を切っているかのような。


そして――箱を開けた。


その瞬間――


部屋の温度が下がった気がした。


いや、気がしただけではない。確実に下がった。


凛の吐く息が白く見える。11月末。暖房をつけている部屋。室温は22度のはず。


なのに、まるで冷蔵庫の中にいるような寒さ。


そして――匂い。


段ボールの中から、古い空気の匂いが溢れ出してきた。


26年前の空気。


埃っぽい。酸っぱい。機械油の匂い。


そして――何か有機的な匂い。血? いや、もっと複雑な何か。


人間の体液が乾いた匂い。汗、涙、唾液。生命の痕跡が、時間とともに変質した匂い。


凛は箱の中を覗き込んだ。


そこには――黒いVHSテープが一本。


緩衝材に包まれて、静かに横たわっていた。プチプチと呼ばれる気泡緩衝材。透明なプラスチックの膜。


凛はそれを取り出した。緩衝材の「プチプチ」という音が、静かな部屋に響く。


手に持つ。


重さ――約200グラム。プラスチックケース、磁気テープ、金属部品。それらの物理的な重量。


だが、それは物理的な重さだけではない。


時間の重さ。記憶の重さ。意識の重さ。そして、魂の重さ。


凛の手が微かに震えた。


VHSテープの表面をじっと見つめる。


黒いプラスチック。所々に傷がある。使い込まれた跡。何度も再生された跡。


そして――ラベル。


白いラベル。そこには手書きで、震える文字で、たった二文字。


「呪い」


黒いマジックで書かれた文字。インクは所々滲んでいる。書いた人の手が震えていたのだろう。


凛の背筋に冷たいものが走った。


これは――本当に呪いなのか。


見た者を記録する呪い。 意識を転写する呪い。 個を消失させる呪い。


凛はテープを裏返した。


裏面にも何か書いてある。小さな文字。


「1999.12.3」

「Camera 01 / 美咲・隆」


美咲。そして――隆。


父の名前。


凛の予感は正しかった。このテープには父の記録も含まれている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ