第39話「土曜日の朝」
11月29日 土曜日 午前7時
凛はほとんど眠れないまま朝を迎えた。
窓の隙間から差し込む光。カーテン越しの、灰色の光。
凛はベッドから起き上がった。頭が重い。身体がだるい。
洗面所に行き、鏡を見る。
顔色が悪い。目の下に濃いクマ。唇も血の気がない。まるで病人のような。
いや――美咲のような。
白血病で死んだ少女。最後の記録をされた少女。
凛は頭を振った。考えすぎだ。ただの寝不足。
シャワーを浴びよう。
凛はバスルームに入った。服を脱ぐ。鏡に映る自分の裸体。痩せている。肋骨が浮き出ている。
シャワーを出す。お湯が身体にかかる。温かい。だが、心は冷たいまま。
髪を洗う。シャンプーの泡が髪を覆う。柑橘系の香り。
身体を洗う。ボディソープが泡立つ。
そして、シャワーを止める。
タオルで身体を拭く。鏡を見る。
曇っている。手で拭く。
自分の姿がぼんやりと映る。
でも――その姿が一瞬、別の誰かに見えた。
白いワンピースを着た少女。長い黒髪。痩せた身体。
美咲。
凛は目をこすった。もう一度見る。
普通の自分。濡れた髪、タオルを巻いた身体。
やはり気のせい。疲れているんだ。
今日はゆっくり休もう。大学もない。予定もない。
一日中部屋にいよう。
そして――明日を待とう。
VHSテープが届く日を。
凛は一日中、ベッドで過ごした。
テレビもつけない。音楽も聴かない。ただ、天井を見つめている。
時々スマートフォンで配送状況を確認する。
午後2時「配送中」「現在地:○○営業所」
午後5時「配送中」「現在地:○○営業所」
もう、このアパートのすぐ近く。明日届く。
夕方、また頭痛がした。こめかみがズキズキと痛む。
水を飲む。薬は飲まない。薬を飲んでも、どうせ効かない気がする。
夜、コンビニで弁当を買う。また鮭弁当。昨日と同じ。
食べる。やはり味がしない。
ゴミ箱に捨てる。
そして、ベッドに横になる。




