表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第一章「フリマアプリの誘惑」
39/41

第38話「目覚め」

午前3時27分。


凛は汗びっしょりで目覚めた。


パジャマが肌に張り付いている。背中、脇の下、額、すべてが濡れている。冷たい汗。


心臓が激しく鳴っている。ドクンドクンドクン――まるで胸から飛び出しそうなほど。


呼吸が荒い。肺が空気を求めている。口が乾いている。


夢。ただの夢。


でも――妙にリアルだった。


ピアノの鍵盤の冷たさ、防音室の匂い、父の声。すべてが生々しかった。


凛は自分の心拍を測ってみた。


手首に指を当てる。橈骨動脈。血液が流れる感触。


ドクン…ドクン…ドクン…


数える。15秒で18回。


つまり――1分で72回。


いや――正確には73回。


凛の血が凍りついた。


73。また、この数字。


偶然? それとも――


凛はベッドから起き上がった。喉が渇いている。砂漠のように。


キッチンに行く。裸足の足が冷たいフローリングに触れる。


水を飲む。グラスに水道水を注ぐ。一気に飲み干す。


でも、喉の渇きが癒えない。


もう一杯。また一杯。


3杯飲んで、ようやく落ち着いた。胃が重い。


凛は窓の外を見た。


真っ暗。街灯だけがぼんやりと光っている。オレンジ色の光が、路面を照らしている。


静かな夜。午前3時。世界が眠っている時間。


でも――凛の耳には何か聞こえる気がした。


低い音。


ブーーーーーン……


また、あの音。


凛は耳を塞いだ。両手で耳を覆う。


でも、音は消えない。


頭の中から聞こえている。骨伝導のように。いや、それ以上に直接的に。まるで脳そのものが振動しているかのように。


これは幻聴? それとも本当に聞こえているのか?


凛は部屋に戻った。ベッドに横になる。


でも――もう眠れない。


目を閉じると、また夢を見そうで怖い。あの防音室、あのピアノ、あの声。


凛はスマートフォンを手に取った。時間を潰すため。


SNSを開く。でも、この時間は誰も投稿していない。タイムラインは静止している。


凛はフリマアプリを開いた。


配送状況を確認する。


「配送中」

「現在地:○○配送センター」


変わっていない。


明日――このアパートの近くまで来る。


そして――明後日。日曜日。届く。


あと48時間。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ