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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第一章「フリマアプリの誘惑」
31/42

第30話「評価コメントの異様さ」

凛は再び、marie_1985のページに戻った。


評価を詳しく見てみる。73件の評価。すべて★5。


でも――コメントが変だった。


「無事届きました。ありがとうございました。73」

「素晴らしい商品です。73」

「人生が変わりました。73」

「幸せになれました。73」

「73」

「73」

「73」


すべてのコメントに、この数字。73。


なぜ? これは何かの暗号? それとも単なる偶然?


凛はコメントを書いた人たちのプロフィールを見てみた。


最初の人。


ユーザー名:kana_1992

登録日:2010年5月

取引数:127件


このユーザーの出品リストを見る。


すると――最近、レトロメディアを出品し始めていた。


「記録されたカセットテープ」

「母の声 - MD」


タイトルがmarie_1985の出品と似ている。そして価格も、すべて500円。


次の人。


ユーザー名:takeshi_1988


この人も最近、レトロメディアを出品している。


「VHSテープ - 記録」

「思考の断片 - フロッピー」


同じだ。


まるで――感染しているかのように。


marie_1985から購入した人が、また同じような商品を出品している。そしてその人から購入した人も、また出品している。


連鎖。ネズミ講のような。


でも、これは商売じゃない。利益が出るはずがない。500円で送料込み。完全な赤字だ。


何か――別の目的がある気がする。


凛の心臓が速く打ち始めた。ドクン、ドクン、ドクン。


自分もこのテープを買ってしまった。見てしまったら、どうなるんだろう。


自分も出品者になってしまうんだろうか。


いや――考えすぎだ。ただの偶然。レトロメディアが今ブームなだけ。きっとそうだ。


凛はそう思い込もうとした。


でも――


心の奥底で―― 別の声が―― 囁いている――


「これは――」 「偶然じゃ――」 「ない――」


「何かが――」 「始まって――」 「いる――」


「そして――」 「あなたも――」 「巻き込まれる――」


図書館の静寂の中で、その内なる声だけが、異様にはっきりと聞こえた。


そして――


遠くから―― また―― あの音が――


ブーーーーーン……


73Hz。


記録された周波数が、時空を超えて伝播している。


それは凛の鼓膜を経由せず、直接脳に響いていた。

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