第30話「評価コメントの異様さ」
凛は再び、marie_1985のページに戻った。
評価を詳しく見てみる。73件の評価。すべて★5。
でも――コメントが変だった。
「無事届きました。ありがとうございました。73」
「素晴らしい商品です。73」
「人生が変わりました。73」
「幸せになれました。73」
「73」
「73」
「73」
すべてのコメントに、この数字。73。
なぜ? これは何かの暗号? それとも単なる偶然?
凛はコメントを書いた人たちのプロフィールを見てみた。
最初の人。
ユーザー名:kana_1992
登録日:2010年5月
取引数:127件
このユーザーの出品リストを見る。
すると――最近、レトロメディアを出品し始めていた。
「記録されたカセットテープ」
「母の声 - MD」
タイトルがmarie_1985の出品と似ている。そして価格も、すべて500円。
次の人。
ユーザー名:takeshi_1988
この人も最近、レトロメディアを出品している。
「VHSテープ - 記録」
「思考の断片 - フロッピー」
同じだ。
まるで――感染しているかのように。
marie_1985から購入した人が、また同じような商品を出品している。そしてその人から購入した人も、また出品している。
連鎖。ネズミ講のような。
でも、これは商売じゃない。利益が出るはずがない。500円で送料込み。完全な赤字だ。
何か――別の目的がある気がする。
凛の心臓が速く打ち始めた。ドクン、ドクン、ドクン。
自分もこのテープを買ってしまった。見てしまったら、どうなるんだろう。
自分も出品者になってしまうんだろうか。
いや――考えすぎだ。ただの偶然。レトロメディアが今ブームなだけ。きっとそうだ。
凛はそう思い込もうとした。
でも――
心の奥底で―― 別の声が―― 囁いている――
「これは――」 「偶然じゃ――」 「ない――」
「何かが――」 「始まって――」 「いる――」
「そして――」 「あなたも――」 「巻き込まれる――」
図書館の静寂の中で、その内なる声だけが、異様にはっきりと聞こえた。
そして――
遠くから―― また―― あの音が――
ブーーーーーン……
73Hz。
記録された周波数が、時空を超えて伝播している。
それは凛の鼓膜を経由せず、直接脳に響いていた。




