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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第一章「フリマアプリの誘惑」
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第28話「講義後」

午前10時30分。講義が終わった。


「では次回は、感情と記憶の関係について話します」


教授が資料を片付ける。学生たちがぞろぞろと教室を出ていく。友達同士で、グループで。笑いながら、話しながら。


「昨日のドラマ見た?」

「見た見た!超面白かった!」

「あのシーン、やばかったよね」


若者特有の、軽快な会話。


凛も立ち上がった。鞄にノートを入れる。筆箱を入れる。


教室を出ようとした時――


「佐々木さん」


声をかけられた。


振り返ると、同じクラスの女子学生。田中美波たなか みなみ。情報工学専攻。成績優秀で、明るくて社交的。凛とは正反対のタイプ。


黒髪のポニーテール、大きな目、いつも笑顔。今日も明るい色のセーターを着ている。


「うん?」


凛が答える。できるだけ表情を変えずに。


「あのね――」


美波が少し躊躇しながら言った。その目には、本物の心配が宿っている。


「最近、大丈夫? なんか元気ないなって思って。授業もたまに休んでるし」


凛は少し驚いた。美波が自分のことを気にかけていた?


「大丈夫」


凛は答えた。作り笑顔を浮かべながら。


「ちょっと疲れてるだけ」


「そっか」


美波が心配そうに見る。その視線が、まっすぐ凛を見つめている。


「無理しないでね。もし何かあったら、いつでも話聞くよ」


「うん、ありがとう」


凛は微笑んだ。いつもの仮面。感情を隠すための、防御壁。


「じゃあ、また」


美波が手を振って去っていく。明るい足取りで、友達のグループに合流する。


凛はその背中を見送った。


優しい人だ。でも――その優しさを受け取ることができない。


深く関わることが怖い。また失うことが怖い。


美月を失った時のように。


親友を事故で失った時、凛の心の一部が死んだ。それ以来、誰とも深い関係を築けなくなった。


凛は一人でキャンパスを歩いた。次の授業まで1時間空いている。


図書館に行こう。そう決めた。

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