第24話「通学路の風景」
駅までの道。いつもの道。
商店街を抜けて、踏切を渡って、徒歩15分。この道を、凛は2年間、毎日歩いている。
午前8時。通勤・通学のラッシュ。人がたくさん。みんな急いでいる。足音が重なり合い、街全体が前へ、前へと流れていく。
凛も、その流れの中の一人。
だが、凛は急いでいない。ゆっくりと歩く。周りの人たちが次々と追い越していく。スーツ姿のサラリーマン、ヒールの音を立てて歩くOL、自転車に乗った学生。
それでも構わない。遅刻しても――別にいい。
凛はイヤホンをつけた。左耳、右耳。耳の穴に押し込むと、外界の音が遠くなる。
音楽を聴く。Spotifyのプレイリスト「chill music」。落ち着いた音楽。ピアノの音、ギターの音、歌詞のないインストゥルメンタル。
音楽が耳に流れ込む。でも、心には届かない。
ただ――雑音を消すため。周りの音を遮断するため。それだけ。
踏切が鳴った。
カンカンカンカン――
警報音が、イヤホンの上からでも聞こえる。遮断機がゆっくりと下りていく。赤いランプが明滅する。
人々が立ち止まる。みんな、スマートフォンを取り出す。待ち時間を無駄にしないために。
電車が通過する。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
規則正しいリズム。車輪がレールの継ぎ目を越えるたびに、「ガタン」という音が響く。そして「ゴトン」という余韻。その繰り返し。
凛は――その音を聞いていた。イヤホンの上から。
電車の音が、音楽より大きい。そして――その音が、何かに似ている気がした。
何だろう?
何かの記憶?
でも―― 思い出せない―― 何か―― 大切な、何か―― 忘れてしまった―― 何か――
電車が通り過ぎた。遮断機が上がる。警報音が止む。
人々が再び歩き始める。凛も歩く。駅に向かって。




