第23話「昨夜の記憶」
着替えながら、凛は昨夜のことを思い出していた。
フリマアプリ。あのVHSテープ。「呪い」というラベル。
なぜ買ったんだろう。自分でも分からない。ただ――何かに引き寄せられた。見たこともないのに、懐かしい気がした。
購入ボタンを押した瞬間のことを、鮮明に覚えている。
「注文が確定しました」
その瞬間――部屋の空気が変わった気がした。
温度が下がった。いや、気のせいかもしれない。でも確かに、何かが変わった。まるで、何かが部屋に入ってきたかのような。
凛はスマートフォンでフリマアプリを開いた。購入履歴を確認する。
「記録されたビデオテープ」 出品者:marie_1985 価格:500円 発送予定日:本日 到着予定日:11月30日(日)
あと2日。2日後には、このテープが届く。
だが――問題がある。
再生する機械がない。
VHSデッキ。ブラウン管テレビ。どちらも持っていない。凛が生まれたのは2004年。その頃にはすでに、DVDが主流になっていた。VHSなんて、博物館の展示品でしか見たことがない。
どうやって再生すればいいんだろう?
誰かに借りる? でも――誰に?
友達? いや、そんなに親しい友達はいない。
先輩? 大学の先輩なら、実家に古い機械があるかもしれない。
凛はLINEを開いた。連絡先をスクロールする。同じクラスの人たち。サークルの人たち。
でも――誰にも頼めない。
「VHSデッキ、貸してください」
そんなこと、急に言えない。変な人だと思われる。
凛はため息をついた。鏡に映る自分の顔を見る。疲れている。目の下にクマができている。髪も、もう3週間は美容院に行っていない。毛先が傷んでいる。
考えても仕方ない。とりあえず、テープが届いてから考えよう。
凛は部屋を出た。大学に向かう。




