第132話「悪夢の再来」
夢の中。
凛はどこかを歩いていた。暗い廊下。グレーの壁。どこかで見た光景。
そう――柳沢邸。地下の廊下。
凛は歩き続けた。足が勝手に動く。止められない。
やがて扉が見えた。重厚な鉄の扉。ムネモシュネの部屋。
扉が開いた。中に入る。
そこには黒い箱。ムネモシュネ。
でもおかしい。破壊したはず。磁気ドラムを消磁したはず。
なのにムネモシュネは動いていた。
ウィーーーーーン……
低い唸り声。磁気ドラムが回転している音。
そしてムネモシュネから声が聞こえてきた。
「凛……」
父の声。
「お帰り……」
「お父さん……?」凛が呟いた。「どうして……消えたはずなのに……」
「消えてない」隆の声。「記録は消えない。永遠に残る。そしてお前ももうすぐこっちに来る」
「いや……」凛が首を振った。「私は記録から解放された……上書き消去成功した……」
「本当に?」別の声。美咲の声。「本当に解放された? それとも一時的に忘れているだけ?」
「何を言ってるの……」凛が混乱した。
そしてムネモシュネが明るく光り始めた。眩しい光。凛は目を閉じた。
そして――
「うっ!」
凛は飛び起きた。全身汗だくだった。心臓が激しく打っている。
ドクンドクンドクンドクン。
夢。あれは夢。
でも妙にリアルだった。まるで本当にそこにいたかのような。
凛は時計を見た。午前4時。まだ暗い。
深呼吸をする。落ち着こうとする。
「大丈夫……」凛が自分に言い聞かせた。「ただの夢……記録はもう消えた……ムネモシュネも破壊した……もう大丈夫……」
でも心臓はまだ速く鳴っている。
心拍数を測ってみる。
ドクン…ドクン…ドクン…
15秒で18回。1分で72回。
「72……」
凛は息を呑んだ。昨日まで68だったのに。また上がっている。
「いや……」凛が首を振った。「夢を見て興奮してるだけ……落ち着けば元に戻る……」
凛は水を飲んだ。そしてもう一度ベッドに横になった。
でも眠れなかった。ムネモシュネの夢が頭から離れない。
午前6時。ようやく薄明るくなってきた。
凛は起き上がった。もう眠れない。
心拍数をもう一度測る。
ドクン…ドクン…ドクン…
15秒で18回。1分で72回。
まだ72。下がらない。
「大丈夫……」凛が呟いた。「きっと大丈夫……」
でも不安が消えない。




