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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第七章「73時間の平和」
132/133

第131話「平穏な年末」

12月27日 金曜日 午後3時。


凛と美波は沖縄から東京に戻った。


羽田空港。人々で溢れている。年末の帰省ラッシュ。普通の光景。平和な日常。


「楽しかったね」美波が言った。


「うん」凛が微笑んだ。「本当に楽しかった」


「また行きたいね」


「うん、また行こう」


二人は電車に乗った。京急線で品川へ、そこから山手線。窓の外を見る。田園風景、住宅地、ビル群。徐々に東京に近づいていく。


凛はスマートフォンを取り出した。ニュースをチェックする。


「年末年始の天気予報:29日から31日にかけて寒波襲来。都心でも積雪の可能性」


「経済ニュース:日経平均、年末にかけて上昇。投資家心理は改善傾向」


普通のニュース。記録メディア現象についての記事はもうない。完全に過去の出来事。忘れ去られた事件。


「良かった……」凛が呟いた。「もう誰も記録のことを覚えていない……」


美波もそれを感じていた。「そうだね。みんな日常に戻った。私たちも戻ろう。普通の日常に」


午後5時。渋谷駅に到着した。凛と美波はそれぞれの家に帰った。


凛の部屋。ドアを開ける。「ただいま……」


誰もいない部屋。でも懐かしい匂い。自分の部屋の匂い。


凛は荷物を置いた。そしてベッドに倒れ込んだ。疲れた。でも心地よい疲れ。旅行の疲れ。幸せな疲れ。


凛は目を閉じた。そしてすぐに眠りに落ちた。深い眠り。夢も見なかった。


12月28日 土曜日 午前9時。


凛は目が覚めた。よく眠れた。身体が軽い。久しぶりに本当にリラックスできた。


心拍数を測ってみる。


ドクン…ドクン…ドクン…


15秒で17回。1分で68回。


「68……」凛が微笑んだ。「完全に正常……」


朝食を作る。トースト、卵、コーヒー。いつもの朝食。でも今日は特別に美味しい。味覚が完全に戻っているから。そして何より心が軽いから。


食事の後、凛は部屋の掃除を始めた。沖縄に行っている間に少し埃が溜まっている。掃除機をかける。窓を拭く。床を磨く。


普通の家事。でもそれがとても心地いい。日常。平和な日常。それがどれだけ貴重か。今なら本当に分かる。


午後1時。美波から電話。


「凛、今何してる?」


「掃除」


「じゃあ終わったら買い物行かない? 年末年始の食材」


「いいよ」


午後3時。凛と美波はスーパーマーケットにいた。年末の買い物客でごった返している。カートを押しながら食材を選ぶ。野菜、肉、魚、調味料。


普通の買い物。でもそれが楽しい。


「これ美味しそう」美波が言った。「お正月に作ろう」


「いいね」凛が頷いた。


二人はたくさんの食材を買った。そしてレジに並ぶ。長い列。でもイライラしない。ただこの時間が穏やかに流れていく。それが幸せ。


午後5時。凛の部屋に戻った。二人で料理を作る。鍋。野菜、肉、豆腐。シンプルな料理。でも二人で作ると美味しい。


「美味しい」凛が言った。


「うん」美波も微笑んだ。「幸せだね」


「うん……本当に幸せ……」


食事の後、二人はテレビを見た。バラエティ番組。笑った。普通の夜。普通の時間。でもそれがかけがえのない宝物。


午後11時。美波が帰った。


「また明日」


「うん、また明日」


凛は一人部屋でくつろいだ。お風呂に入る。温かいお湯。疲れが取れていく。


そしてベッドに入る。柔らかい布団。心地いい。


凛はすぐに眠りに落ちた。平和な眠り。


でもその夜、凛は久しぶりに夢を見た。

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