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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第六章「ムネモシュネの破壊」
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第130話「新しい朝?」

12月20日 金曜日 午前8時。


凛は母の家のベッドで目が覚めた。


窓から朝日が差し込んでいる。眩しい。でも心地いい。


体を起こす。頭痛はない。吐き気もない。体が軽い。


心拍数を測る。68回/分。完璧に正常。


美波がソファで眠っていた。ずっと側にいてくれたんだ。


「美波」凛が優しく呼びかけた。


美波が目を覚ました。「凛! 起きた!」


「おはよう」


「おはよう!」美波が満面の笑みで言った。「気分は?」


「最高」凛が答えた。「もう何も聞こえない。記録の声も、73Hzも、何も」


二人は抱き合った。長い長い戦いが終わった。


香織が部屋に入ってきた。「凛、起きたのね」


「おはよう、お母さん」


「おはよう」香織が微笑んだ。「朝食作るわね」


三人でキッチンへ。卵を焼く。パンを焼く。コーヒーを淹れる。


いつもの朝食。でも今日は特別。


「乾杯」香織がコーヒーカップを上げた。


「新しい世界に」


「記録のない世界に」


三人はカップを合わせた。


そしてニュースを見た。


「速報:謎の集団現象、完全収束


19日夜を最後に謎の集団現象は完全に収束。専門家は『一時的な集団心理現象だった』との見解。記憶喪失の症状も徐々に回復傾向。政府は調査を終了する方針」


凛と美波と香織は顔を見合わせて微笑んだ。


真相は永遠に明かされない。73Hz、ムネモシュネ、分散型記録システム。すべては闇の中に消える。


それでいい。


「これから」凛が言った。「どうしようか」


「大学に戻る?」美波が聞いた。


「うん。研究を続ける。記憶と意識について。そしてお父さんの研究も検証する」


「私も」美波が言った。「一緒に研究しよう」


香織が二人を見た。「いい友達に恵まれたわね、凛」


「うん」凛が微笑んだ。「本当に」


午後、凛と美波は凛の部屋に戻った。


部屋の中には、箱に入った5つのメディアがあった。VHS、カセット、MD、フロッピー、8mmフィルム。


「これ、どうする?」美波が聞いた。


凛はしばらく考えて答えた。「大学に寄贈する。資料として。そして論文を書く。『柳沢正臣の記録技術とその危険性について』」


「いい考え」美波が頷いた。


二人は窓の外を見た。青い空。白い雲。平和な冬の日。


「終わったね」美波が言った。


「うん」凛が答えた。「長い戦いだった」


「でも勝った」


「うん。勝った」


二人は微笑み合った。


そして新しい人生が始まる。


記録のない人生。


73Hzのない人生。


ただ自分として生きる人生。

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