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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第六章「ムネモシュネの破壊」
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第129話「第三回同期前夜」

12月19日 木曜日 午前7時。


凛は目が覚めた。今日が最後の日。


午後11時15分に第三回同期が予定されている。これを防げば、すべてが終わる。記録が完全に消失する。


心拍数を測る。72回/分。


「また72……」凛が呟いた。「でも今日で最後……」


美波が起きてきた。「おはよう。今日だね」


「うん。最後」


二人は朝食を作った。トースト、卵、コーヒー。いつもの朝食。でも今日は特別。


「凛」美波が言った。「怖い?」


「少し」凛が正直に答えた。「3回目だから。体への負担も大きい」


「でも」美波が続けた。「田中教授がいる。お母さんもいる。私もいる。大丈夫」


凛は微笑んだ。「ありがとう」


午後、三人は準備を始めた。母の家へ移動。田中教授も到着。


「今夜で最後です」田中教授が言った。「頑張りましょう」


午後10時。鎮静剤投与の時刻。


凛はベッドに横になった。点滴が刺される。


「では始めます。100から数えてください」


「100……99……98……」


三回目。もう慣れた。


「97……96……95……」


意識が遠のく。


「94……93……」


暗闇。


そして――


午後10時15分。


凛は深い眠りの中にいた。


でも今回は何かが違った。


夢を見ている。


暗闇の中。無数の声。


「凛……」「凛……」「目覚めて……」


違う。これは記録の声。


「来て……」「一緒に……」「永遠に……」


凛は夢の中で叫んだ。「いや! 私は行かない!」


でも声は止まらない。どんどん大きくなる。


「凛……」「凛……」「凛……」


午後11時15分。第三回同期の時刻。


街では最小規模の集団が出現した。数十人程度。もはや「現象」と呼べるほどではない。


そして午後11時30分、集団は散開した。


記録の最後の抵抗が終わった。


午前0時15分。覚醒誘導剤投与。


でも凛は目覚めなかった。


「凛?」美波が呼びかける。


反応がない。


「田中先生!」香織が叫んだ。


田中教授がモニターを確認する。「心拍数正常。呼吸正常。でも覚醒反応がない……」


「どういうこと!?」


「分かりません……通常なら目覚めるはずですが……」


美波が凛の手を握った。「凛! 起きて!」


でも凛は眠り続けている。深い深い眠り。


「追加の覚醒誘導剤を」田中教授が決断した。


薬剤を注入する。


5分経過。10分経過。


そして――


凛の指が動いた。


「凛!」


瞼がゆっくりと開く。焦点が定まらない目。


「……ここは……」凛が呟いた。


「凛!」美波が泣きながら抱きついた。


凛は混乱していた。「私……夢を見てた……記録の声が……呼んでいた……」


「でももう大丈夫」香織が言った。「目覚めたから」


凛は自分の胸に手を当てた。心拍数を測る。


ドクン…ドクン…ドクン…


15秒で17回。1分で68回。


「68……」凛が微笑んだ。「正常……終わった……本当に終わった……」


時計を見る。午前0時30分。12月20日になっていた。


219時間が経過した。


記録は完全に消失した。


すべてが終わった。

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