第129話「第三回同期前夜」
12月19日 木曜日 午前7時。
凛は目が覚めた。今日が最後の日。
午後11時15分に第三回同期が予定されている。これを防げば、すべてが終わる。記録が完全に消失する。
心拍数を測る。72回/分。
「また72……」凛が呟いた。「でも今日で最後……」
美波が起きてきた。「おはよう。今日だね」
「うん。最後」
二人は朝食を作った。トースト、卵、コーヒー。いつもの朝食。でも今日は特別。
「凛」美波が言った。「怖い?」
「少し」凛が正直に答えた。「3回目だから。体への負担も大きい」
「でも」美波が続けた。「田中教授がいる。お母さんもいる。私もいる。大丈夫」
凛は微笑んだ。「ありがとう」
午後、三人は準備を始めた。母の家へ移動。田中教授も到着。
「今夜で最後です」田中教授が言った。「頑張りましょう」
午後10時。鎮静剤投与の時刻。
凛はベッドに横になった。点滴が刺される。
「では始めます。100から数えてください」
「100……99……98……」
三回目。もう慣れた。
「97……96……95……」
意識が遠のく。
「94……93……」
暗闇。
そして――
午後10時15分。
凛は深い眠りの中にいた。
でも今回は何かが違った。
夢を見ている。
暗闇の中。無数の声。
「凛……」「凛……」「目覚めて……」
違う。これは記録の声。
「来て……」「一緒に……」「永遠に……」
凛は夢の中で叫んだ。「いや! 私は行かない!」
でも声は止まらない。どんどん大きくなる。
「凛……」「凛……」「凛……」
午後11時15分。第三回同期の時刻。
街では最小規模の集団が出現した。数十人程度。もはや「現象」と呼べるほどではない。
そして午後11時30分、集団は散開した。
記録の最後の抵抗が終わった。
午前0時15分。覚醒誘導剤投与。
でも凛は目覚めなかった。
「凛?」美波が呼びかける。
反応がない。
「田中先生!」香織が叫んだ。
田中教授がモニターを確認する。「心拍数正常。呼吸正常。でも覚醒反応がない……」
「どういうこと!?」
「分かりません……通常なら目覚めるはずですが……」
美波が凛の手を握った。「凛! 起きて!」
でも凛は眠り続けている。深い深い眠り。
「追加の覚醒誘導剤を」田中教授が決断した。
薬剤を注入する。
5分経過。10分経過。
そして――
凛の指が動いた。
「凛!」
瞼がゆっくりと開く。焦点が定まらない目。
「……ここは……」凛が呟いた。
「凛!」美波が泣きながら抱きついた。
凛は混乱していた。「私……夢を見てた……記録の声が……呼んでいた……」
「でももう大丈夫」香織が言った。「目覚めたから」
凛は自分の胸に手を当てた。心拍数を測る。
ドクン…ドクン…ドクン…
15秒で17回。1分で68回。
「68……」凛が微笑んだ。「正常……終わった……本当に終わった……」
時計を見る。午前0時30分。12月20日になっていた。
219時間が経過した。
記録は完全に消失した。
すべてが終わった。




