第127話「束の間の平和」
12月14日 金曜日。
凛は一日中ベッドで休んでいた。昨夜の鎮静の影響がまだ残っている。体が重い。頭がぼんやりする。
でも心拍数は正常。68回/分。
美波がずっと側にいてくれた。「何か食べる?」
「うん……お粥がいい……」
美波がお粥を作ってくれた。優しい味。体に染み渡る。
「ありがとう、美波」
「どういたしまして」
窓の外を見る。晴れている。平和な冬の空。
「次の同期は」凛が言った。「12月16日午後10時15分……あと2日……」
「その前に」美波が言った。「しっかり休んで。体力回復させないと」
凛は頷いた。
午後、母が来た。「凛、大丈夫?」
「うん。少し疲れてるけど大丈夫」
香織が娘の額に手を当てた。「熱はない。良かった」
「お母さん」凛が聞いた。「昨夜の同期、ニュースではどう報道されてる?」
香織がスマートフォンを見せた。
「謎の集団現象、再発も小規模
13日夜、10日に発生した謎の集団現象が再び発生。ただし規模は前回の約3分の1。集団は30分ほどで散開し大きな混乱には至らず。専門家は『前回の経験で警察の対応が迅速だった』と分析」
凛は安堵した。「核がいないから規模が小さかった……」
「そして」香織が続けた。「田中教授から連絡があった。次回16日の準備も整ってる」
凛は母に感謝した。「ありがとう、お母さん」
「私も」香織が微笑んだ。「お父さんの遺志を継いでる。記録を止める。それが正しいことだから」
夕方、凛は少し散歩に出た。美波と一緒に。
近くの公園。冬の夕暮れ。空がオレンジ色に染まっている。
「きれい……」凛が呟いた。
「うん」美波が答えた。
二人はベンチに座った。しばらく黙って空を見ていた。
「美波」凛が言った。「もし私が……最後の同期で目覚めなかったら……」
「やめて」美波が遮った。「そんなこと言わないで」
「でも」凛が続けた。「可能性はある。3回も鎮静するんだから」
「凛」美波が真剣に言った。「あなたは目覚める。絶対に。私が信じてる」
凛は美波の目を見た。その目には強い意志があった。
「ありがとう」凛が微笑んだ。
「それに」美波が続けた。「田中教授は経験豊富な麻酔科医。何千回も鎮静と覚醒をコントロールしてる。大丈夫」
凛は頷いた。「そうだね」
空がだんだん暗くなっていく。星が見え始める。
「もうすぐすべてが終わる」凛が言った。「12月20日には記録が完全に消える。そしたら本当に終わり」
「うん」美波が答えた。「そしたら私たち、何しようか」
「何しようか……」凛が考えた。「旅行とか?」
「いいね。どこ行く?」
「温泉とか」
「最高」美波が笑った。
二人は未来の話をした。記録のない未来。平和な未来。
でもその前に、あと2回の試練を乗り越えなければならない。
12月16日。そして12月19日。




