第124話「同期の核」
二人はさらに論文を読み進めた。そして同期の仕組みについて詳細な説明を見つけた。
「分散型記録システムの同期プロトコル
同期タイミング:73時間ごと
同期信号:73Hzの共鳴
同期方法:記録された個人が無意識に73Hzを発生させる。脳波のリズムが73回/分に同期する。心拍数が73回/分に近づく。これらが共鳴しネットワークが形成される。
同期場所:個人は無意識に特定の場所に集まる。73人単位の集団を形成する。集団同士がさらに大きな共鳴を起こす。
注意:同期を3回連続で失敗すると記録は完全に消失する。つまり73時間×3=219時間(約9日)同期しなければ記録は自然消滅する」
凛は紙に計算を書いた。
「ムネモシュネ破壊:12月10日 20:15」
「第一回同期予定:12月13日 21:15(73時間後)」
「第二回同期予定:12月16日 22:15(146時間後)」
「第三回同期予定:12月19日 23:15(219時間後)」
「完全消失:12月19日 23:15以降」
「つまり」凛が言った。「あと3回の同期を防げば記録は完全に消える……」
「でも」美波が不安そうに言った。「どうやって防ぐの? 10万人が無意識に同期しようとする……集まろうとする……それを止めるなんて……」
凛はまた論文を読んだ。そして一つの可能性を見つけた。
「ここ」凛が指差した。
「同期の阻害方法
理論的には以下の方法で同期を阻害できる:
・73Hzの逆位相音を広範囲に放送する(ただし10万人規模では効果が薄い)
・記録された個人を物理的に隔離する(実行不可能)
・記録された個人の脳波を薬物で抑制する(倫理的に問題)
・同期の『核』となる個人を特定して無力化する(最も現実的)
注:同期には『核』が必要である。最も強く記録された個人が核となり他の個人を引き寄せる。核を無力化すれば同期は失敗する」
「核……」美波が呟いた。「最も強く記録された個人……」
凛はゾッとした。最も強く記録された個人。それは5つすべてのメディアを見た人。VHS、カセット、MD、フロッピー、8mmフィルム。すべてを見た人。
つまり――
「私……」凛が震える声で言った。「私が核……」
美波もそれに気づいた。「凛、あなたが同期の中心になる……」
凛は自分の胸に手を当てた。心臓。鳴っている。
ドクン…ドクン…ドクン…
72回/分。正常より速い。そして徐々に73に近づいている。
「第一回同期は」凛が言った。「12月13日午後9時15分……あと36時間……その時私はどうなるの……」
美波は論文をもう一度読んだ。そして答えた。
「あなたの心拍数が73になる……そして無意識に73Hzを発生させる……それが信号になって他の記録された人々があなたのところに集まってくる……」
凛は想像した。自分の周りに10万人が集まってくる。白い服を着て。虚ろな目で。微笑みながら。
そして同期する。記録が強化される。もう消せなくなる。
「じゃあ」凛が聞いた。「私を無力化すれば同期は失敗する?」
「理論的にはそう」美波が答えた。「でも無力化ってどうやって?」
凛は考えた。自分を無力化する。つまり同期の信号を発しないようにする。心拍数を73にしない。73Hzを発生させない。
そのためには――
「昏睡状態……」凛が呟いた。
「え?」
「意識を失えば信号を発しない……だから私を眠らせればいい……73時間ごとに……」
美波はそれを聞いて複雑な表情をした。「でもそれって危険じゃない? 3回、9日間、何度も昏睡状態にするなんて……」
凛はそれでも決意していた。「でも他に方法がない……これが唯一の方法……」




