第122話「悪夢の再来」
12月12日 水曜日 午前3時。
凛は悪夢を見ていた。
暗闇の中。無数の声が呼んでいる。
「凛……」「凛……」「こっちに来て……」
凛は起き上がった。汗をかいている。心臓が速く鳴っている。
ドクン…ドクン…ドクン…
脈を測る。15秒で18回。1分で72回。
「72……」凛が呟いた。「上がってる……」
昨日まで68だったのに。4も上がっている。
なぜ? 記録は消えたはず。ムネモシュネを破壊したから。73Hzも止まったはず。
なのになぜ心拍数が上がる?
「凛?」美波が目を覚ました。「どうしたの?」
「心拍数」凛が震える声で言った。「72になってる……」
美波の顔が青ざめた。「え? 昨日まで68だったのに……」
「うん……」凛が頷いた。「でも今測ったら72……」
美波はすぐに凛の手首を掴んだ。自分で確認する。
ドクン…ドクン…ドクン…
確かに速い。
「本当に72……」美波が呟いた。「なぜ……ムネモシュネは破壊したのに……」
二人は顔を見合わせた。不安。恐怖。そして最悪の予感。
もしかしてまだ終わっていない? 記録はまだ続いている?
「ニュース見てみよう」美波がスマートフォンを取り出した。画面を見る。
「続報:記憶障害、回復せず
記録メディア現象で記憶を失った人々のうち、一部が依然として記憶を回復していない。専門家は『予想より深刻』と指摘」
「新たな症状
一部の人々が新たな症状を訴えている。『誰かの声が聞こえる』『自分が自分じゃない気がする』など。心療内科への受診者が急増」
凛と美波は息を呑んだ。
「これ……」凛が呟いた。「記録がまだ続いてる……?」
「でも」美波が言った。「ムネモシュネは確かに破壊した……磁気ドラムも停止した……なのになぜ……」
凛は何かを思い出した。柳沢正臣の言葉。渋谷のビジョンで見た。
「上書き消去は一時的な解決に過ぎません」「今夜の共鳴によりすべての上書きは無効化されます」
そしてもう一つ。何か重要なことを言っていた。でも思い出せない。
「凛」美波が真剣な顔で言った。「調べよう。柳沢正臣の研究をもっと詳しく。もしかしたら私たち見落としてるかもしれない」
凛は頷いた。「うん。大学に行こう。図書館で論文を探す」
二人は急いで準備をした。




