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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第六章「ムネモシュネの破壊」
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第119話「破壊と解放」

「凛」香織が娘を見た。「本当にいい? これを起動したら、すべての記録が消える。お父さんの意識も消える……」


凛はムネモシュネを見た。父がいる。父の意識がこの中にある。


でもそれはもう父じゃない。記録。情報。データ。父という形をした何か。


「いいよ」凛が答えた。「お父さんも望んでる。解放されることを」


香織はしばらく黙っていたが、そして頷いた。「分かった。なら始めましょう」


美波がスイッチの前に立った。「準備いい?」


凛と香織が頷いた。


「じゃあ」美波が深呼吸をした。「行くよ」


彼女の指がスイッチに触れた。そして押した。


ブーーーーーン……


電磁石が起動した。強力な磁場。2テスラ。MRI装置と同じくらい。


その磁場がムネモシュネを包んだ。


そして変化が起きた。


ムネモシュネが震え始めた。


ガタガタガタガタ――


内部の磁気ドラムが狂い始めた。回転が乱れる。


そして音が変わった。


ウィーーーーーン……から、ギギギギギギ……という異常な音。金属が軋む音。磁気記録が破壊されている音。


凛はじっと見つめていた。ムネモシュネが苦しんでいるように見えた。いや、その中の意識たちが苦しんでいる。消えていく苦しみ。


でもこれが解放。真の解放。


「お父さん……」凛が呟いた。「さようなら……」


ムネモシュネの振動が激しくなった。内部で何かが壊れる音。


バチン! バチバチバチ!


電気的なショート? いや、磁気ドラムが物理的に破損している。


そして香織が言った。「見て、ケーブルが――」


ムネモシュネに繋がっている無数のケーブル。それらが一本ずつ外れ始めた。まるで生命が終わりを迎えるように。


一本、二本、三本。


すべてのケーブルが床に落ちる。


そしてムネモシュネの音が止まった。


完全な静寂。


回転音が消えた。磁気ドラムが停止した。すべての記録が消去された。


三人はしばらく何も言わなかった。ただ静寂を聞いていた。


いや、静寂は聞くものじゃない。でも確かに何かが変わった。


空気が変わった。重かった空気が軽くなった。圧迫感が消えた。73Hzのうなり。それが完全に止まった。


凛は自分の胸に手を当てた。心臓。鳴っている。


ドクン…ドクン…ドクン…


リズムを確認する。15秒で17回。1分で68回。


「68……」凛が呟いた。「正常に戻った……」


美波が凛を抱きしめた。「やった……やったよ凛……成功した……」


香織も二人を抱きしめた。


三人は泣きながら抱き合った。


長い長い戦い。VHSテープとの出会い。記録への侵食。5つのメディア。上書き消去。そしてムネモシュネの破壊。


すべてが終わった。


「お父さん」凛が呟いた。「ありがとう……そして、さようなら……」


ムネモシュネはもう動かない。黒い箱。ただの金属の塊。


もうそこには誰もいない。真理子も、美咲も、隆も。みんな解放された。記録から、永遠の牢獄から、解放された。


「行きましょう」香織が言った。「外の様子を見に」


三人は部屋を出た。階段を登る。地下3階から地上へ。そして柳沢邸の外に出た。


夜の空気。冷たい。でも心地いい。生きている実感。


凛はスマートフォンを取り出した。ニュースサイトを開く。


そこには速報が流れていた。

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