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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第五章「73の意味」
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第117話「侵入」

午後8時。渋谷駅ハチ公前。


そこに香織が立っていた。大きなバッグを持って。


「凛」「お母さん」


二人は抱き合った。「無事で良かった……」「お母さんも」


香織は美波にも頭を下げた。「美波さん、いつも娘がお世話になってます」


「いえ……」美波が恥ずかしそうに言った。「凛と一緒にいられて私も嬉しいです」


香織がバッグを開けた。中には電磁石。50キロの重量。分解してある。コイルと電源。


「これで」香織が言った。「ムネモシュネを破壊する。磁気記録を完全に消去する」


三人は駅を出た。タクシーを拾う。


「柳沢邸まで」


香織が運転手に告げた。運転手は少し驚いた顔をしたが頷いた。


タクシーが動き出した。渋谷の夜景。ネオンが流れていく。でも至る所に白い服の人々。まだ増え続けている。


「全国で」香織が言った。「同じことが起きてる。大阪、名古屋、福岡。すべての主要都市で記録者の集会。そして73Hzの共鳴。このままだと日本中が、いや世界中が記録に飲み込まれる」


凛は窓の外を見た。白い服の人々。みんな同じ表情。虚ろな目。微笑み。そして記録メディアを持っている。


個が消えている。みんな一つになっている。


それは幸せなのか。正臣はそう信じている。でも凛には分からない。個を失うことが本当に幸せなのか。


「着きました」運転手が言った。


タクシーが止まった。そこは柳沢邸の近く。


三人はタクシーを降りた。そして柳沢邸に近づいた。


巨大な洋館。明治時代の建築。周りには高い塀。でも人の気配がない。記録された人々はみんな渋谷に行っている。


今なら侵入できる。


「行こう」香織が言った。


三人は裏口に向かった。香織が25年前の合鍵を取り出す。鍵穴に差し込む。回す。


カチャッ。開いた。


「まだ使える……」


三人は中に入った。廊下。長い廊下。埃っぽい空気。誰も住んでいない。でも記録された人々が出入りしている痕跡。床の足跡。壁の手跡。


静かに進む。ヘッドライトだけが暗闇を照らす。


やがて大きなホール。吹き抜けになっている。天井は高い。そして中央には階段。地下への階段。


「あそこ」香織が指差した。「地下3階にムネモシュネがある」


三人は階段を降り始めた。地下1階、地下2階、地下3階。最深部。


そこには重厚な扉。鉄製の扉。


香織が扉を開けようとした。でも鍵がかかっている。


「壊す」凛が言った。


彼女は電磁石の一部を手に取った。重い金属の塊。それを扉の鍵穴に叩きつけた。


ガンッ! 一度、二度、三度。


鍵が壊れた。ガチャッ。


扉が開いた。


三人は中に入った。


そして見た。


黒い箱。高さ2メートル。幅1メートル。金属製。表面には無数のケーブル。そして磁気ドラムが回転している音。


ウィーーーーーン……


低い唸り声。


これがムネモシュネ。すべての記録の源。


真理子、美咲、隆。そして数千、数万の人々の意識が記録されている。


「これを」凛が呟いた。「壊す……」


三人は電磁石を組み立て始めた。


最後の戦い。記録との決着。そしてすべての人々の解放。


それが今、始まる。

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