第116話「母の計画」
凛のスマートフォンが鳴った。
着信:母
凛はすぐに出た。「もしもし」
「凛!」母の声。切羽詰まった声。「無事なの!?」
「うん、今渋谷にいる……」
「渋谷!?」香織が叫んだ。「危ない! すぐに離れなさい!」
「大丈夫。今地下のカフェにいる。73Hzの影響はほとんどない」
「でも」香織が言った。「ニュース見た?」
「見た……正臣のメッセージ……」
「そう……」香織が深くため息をついた。「彼は本当にやるつもり。人類を一つにする計画」
「でも」凛が聞いた。「上書き消去が無効化されるって本当なの?」
香織はしばらく沈黙してから答えた。
「分からない……正臣の理論は複雑すぎて私にも完全には理解できない……でも一つだけ分かることがある」
「何?」
「ムネモシュネ」香織が言った。「あの黒い箱。あれがすべての源。あれを破壊すれば、すべての記録が無効化される。上書き消去の無効化も止められる」
凛はそれを思い出した。そう。前に母が言っていた。ムネモシュネを破壊する。それが唯一の根本的解決。
「でも」凛が言った。「柳沢邸にはどうやって入るの? 記録された人たちが守ってるんでしょ?」
「今は」香織が答えた。「チャンス」
「え?」
「記録された人たちはみんな渋谷に集まってる。柳沢邸は今空っぽかもしれない」
凛の心臓が速く鳴り始めた。チャンス。今ならムネモシュネを破壊できるかもしれない。
「お母さん」凛が言った。「行く。柳沢邸に。そしてムネモシュネを破壊する」
「でも凛、危険よ」
「分かってる。でもやらなきゃいけない。これが最後のチャンス」
香織は娘の決意を感じた。
「分かった……なら私も行く。今からそっちに向かう。田中教授にも連絡して電磁石を借りる。そして三人で柳沢邸に侵入する」
「午後8時、渋谷駅で落ち合いましょう」
「分かった」
電話が切れた。
凛は美波を見た。「美波、聞いてた?」
「うん」美波が頷いた。「行くんだね。柳沢邸に」
「うん……でもあなたは来なくていい。危険だから」
美波は首を振った。「何言ってるの。私も行く。ここまで来て一人にするわけないでしょ。友達だもん」
凛の目から涙が溢れた。「ありがとう……本当にありがとう……」
美波が凛を抱きしめた。「一緒に行こう。そして終わらせよう。この記録を」
二人はカフェを出た。午後7時30分。外はまだ混沌としていた。白い服の人々が至る所にいる。
でも交差点から離れれば73Hzの影響は弱い。
二人は渋谷駅に向かった。そこで香織と待ち合わせ。そして柳沢邸へ。
最後の戦い。




