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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第五章「73の意味」
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第111話「回復と決意」

みんないない。いや、いなくなったわけじゃない。ただ分離した。


凛は凛。記録は記録。境界がはっきりした。


「成功……した……?」凛が聞いた。


「うん」美波が泣きながら頷いた。「成功した。上書き消去できた。あなた、元に戻った」


凛は涙が溢れてきた。戻れた。本当に戻れた。記録から解放された。


「ありがとう、美波……」


「ううん」美波が微笑んだ。「凛が頑張ったから。73回ちゃんと言えたから」


二人はしばらく抱き合っていた。泣きながら。笑いながら。


そして美波が時計を見た。「午後6時13分……ちょうど73分……そして集会まであと50分……」


凛はしばらく横になっていた。身体が重い。でも頭はクリアだった。もう無数の声は聞こえない。自分が自分だと分かる。


「水飲む?」美波がコップを差し出した。


「うん……」


凛は水を一気に飲んだ。冷たい水が喉を通る。生きている実感。味がする。ちゃんと味がする。


「ありがとう……」


美波は優しく微笑んだ。そしてふと思い出したようにスマートフォンを取り出した。


「ニュース見てみる? 集会の様子」


凛は頷いた。


美波がニュースサイトを開いた。


「速報:渋谷スクランブル交差点に謎の集団


午後6時現在、渋谷スクランブル交差点に約700名の集団が集結。全員が白い服を着用し、様々な記録メディアを所持。警察が警戒を強めている。集団は午後7時3分に何かを行う予定とSNSで予告」


画面には渋谷のライブ映像。スクランブル交差点。


そこに白い服を着た人々が整然と並んでいる。数百人。いや、千人近く。


すべて同じような表情。虚ろな目。微笑み。


そしてそれぞれが何かを持っている。VHSテープ、カセットテープ、MD、フロッピーディスク、8mmフィルム。様々な記録メディア。


「これ……」凛が呟いた。「何が起こるの……」


美波も不安そうに画面を見ていた。「分からない……でも凛はもう記録から解放された。だから大丈夫」


でも凛には分かっていた。


これは終わりじゃない。自分は解放された。でも他の何百人、何千人はまだ記録されたまま。


そして今夜、午後7時3分に何かが起こる。


「行こう」凛が言った。


「え?」美波が驚いた。「どこに?」


「渋谷。集会に」


「でも」美波が止めようとした。「危険だよ」


「分かってる」凛が答えた。「でも見なきゃいけない。何が起こるのか。そしてもしかしたら止められるかもしれない」


美波はしばらく考えて、そして頷いた。


「分かった。なら私も行く。一人じゃ危険」


凛は美波を見た。「ありがとう。でも本当に大丈夫?」


「大丈夫」美波が微笑んだ。「友達だもん。一緒に行こう」


二人は準備を始めた。黒い服に着替える。目立たないように。スマートフォン、モバイルバッテリー、録音機器。美波が念のために持つ。


「もし」美波が言った。「何か異常な音が聞こえたら録音する。証拠として」


凛は頷いた。


そして5つのメディアを見た。VHS、カセット、MD、フロッピー、8mmフィルム。すべて机の上に並んでいる。


もう二度と見ることはない。もう二度と触れることもない。


「行こう」凛が言った。


二人は部屋を出た。外は真っ暗。冬の夜。冷たい風が吹いている。


でも凛の心は温かかった。自分を取り戻した。そして友達と一緒にいる。


時計を見る。午後6時30分。


渋谷まで30分。集会まであと33分。

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