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ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第五章「73の意味」
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第106話「準備と母の警告」

午前11時。


二人は凛の部屋に戻った。そして準備を始めた。


5つのメディアをすべて用意する。


VHSテープ。カセットテープ。MD。フロッピーディスク。8mmフィルム。


そしてそれぞれの再生機器。VHSデッキ、カセットデッキ、MDプレーヤー、古いパソコン(フロッピー用)、8mmプロジェクター。


すべてを部屋に並べる。まるで古代の儀式のための祭壇のように。テーブルの上、床の上、あらゆる場所に機材が置かれる。


「これを」美波が言った。「同時に再生する……できる?」


「やるしかない」凛が答えた。


美波は各機器を配線し始めた。すべてを一つのスピーカーシステムに接続する。ミキサーを使って。彼女の指は慣れた動きで次々とケーブルを繋いでいく。


「これで」美波が説明した。「音声はすべて混ざって一つのスピーカーから出る」


「映像は?」


「VHSと8mmフィルムは別々のスクリーンに。フロッピーのデータはノートパソコンの画面で。すべて同時に見られるようにする」


凛はその光景を想像した。


5つのメディア。すべての記録。すべての意識。真理子の声、美咲の声、父の声。それらが同時に凛を襲う。


「怖い……」凛が呟いた。


「大丈夫」美波が凛の手を握った。温かい手。生きている手。「私がずっと側にいる。何かあったらすぐ止める。73分以内に音声コマンドを言えばいい。それで元に戻れる」


凛は美波の目を見た。この人は本当に優しい。命を懸けて助けようとしてくれている。


「ありがとう、美波」


「当たり前でしょ」美波が微笑んだ。「友達だもん」


準備が完了した。午後2時。あと5時間。集会が始まるまで。


「いつやる?」美波が聞いた。


凛は時計を見た。「午後5時。集会の2時間前。73分だから午後6時13分に終わる。そこから少し休んで、集会の様子を見に行く」


美波は頷いた。「分かった。じゃあそれまで休もう。体力温存しないと」


窓の外を見る。空はますます暗くなっている。まるで夜が早く訪れるように。


午後3時。


凛のスマートフォンが鳴った。


着信:母


凛は電話に出た。「もしもし」


「凛」母の声。緊張している。震えている。


「今日、集会の日よね」


「うん……」


「ニュースで見た」香織が言った。「渋谷にもう人が集まり始めてる。白い服の人たち。数百人……そしてみんな何かを持ってる」


「何?」


「メディアよ」香織が答えた。「VHS、カセット、MD――いろんな記録メディア。そして午後7時3分に一斉に再生するらしい」


凛の背筋が凍りついた。「一斉に……?」


「そう。数百人が同時に記録を再生する」


「そうすると、どうなるの?」


香織はしばらく沈黙してから答えた。「分からない……でも、きっと良いことじゃない……記録が増幅されるかもしれない……共鳴してもっと強力になるかもしれない……」


凛はゾッとした。


数百人が同時に記録を再生する。73Hzが増幅される。共鳴する。


そして――何が起こる?


「凛」母が続けた。「お願いだから、渋谷には行かないで。危険すぎる」


「でも……」


「まだ間に合うわ。今すぐこっちに来て。私が別の方法を考える」


凛は迷った。母を信じるべきか。それともフロッピーディスクの指示に従うべきか。


「お母さん」凛が言った。「私、今日やる。上書き消去を」


「何ですって?」母の声が高くなった。


「フロッピーディスクに方法が書いてあった。5つすべてを同時に再生して、73分間視聴して、音声コマンドを73回言う。そうすれば元に戻れるって」


「凛!」母が叫んだ。「それは罠よ! 正臣はあなたを完全に記録するためにそう書いたのよ!」


「でも他に方法が……」


「あるわ! 私が25年かけて研究してきた方法が! だから今すぐこっちに……」


「ごめん、お母さん」凛が言った。「もう決めた。今日の午後5時にやる」


「凛!」


「信じて。私、大丈夫だから」


凛は電話を切った。手が震えていた。


美波が心配そうに見ている。「お母さん、反対してた?」


「うん……でもやる。やるしかない」


時計を見る。午後3時15分。


あと1時間45分。

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