第102話「母の警告と決断」
12月8日 月曜日 午前9時。
凛はスマートフォンを見た。母からのメールがもう一通届いていた。
『凛
昨夜電話した後、気になって調べてみた。
柳沢正臣の技術には二つの側面がある。
一つは「完全な記録」。5つすべてを見ると完全に記録される。
もう一つは「上書き消去」。でもこれには条件がある。
5つを「逆順」で見ること。
つまり8mmフィルム→フロッピー→MD→カセット→VHSの順番。
あなたはVHS→カセットの順で見てしまった。
この順番で5つ見ると……完全に記録される。
でも「途中で止めれば」まだ助かる。
今すぐこっちに来て。
母より』
凛は画面を凝視した。手が震えている。
「美波……これ見て……」
美波がメールを読んだ。顔が青ざめる。
「逆順……そんな条件が……」
「私たちは正順で見てる……このまま5つ見たら……」
二人は顔を見合わせた。
その時――ピンポーン。
インターホンが鳴った。
MD。届いた。
凛はドアを開けた。配達員が立っている。無表情。機械的。
「佐々木様ですね」
「はい」
小さな封筒。凛はそれを受け取った。
部屋に戻る。美波が心配そうに見ている。
「開ける?」
凛は迷った。母のメールによれば、このまま見れば完全に記録される。でも見なければ美咲を解放できない。
「お母さんの言う通り、行く?」美波が聞いた。
凛は封筒を握りしめた。中にはMD。美咲の日記。美咲の最後の願い――「解放して」。
「いや」凛が答えた。「見る」
「でも……」
「美咲は言った。『解放して』って。私がやらなきゃ、誰がやるの?」
「でも凛が……」
「大丈夫」凛が微笑んだ。「あなたがいるでしょ」
美波の目から涙が溢れた。「バカ……」
「じゃあ準備しよう。慎重に。少しずつ聞く。何かあったらすぐ止める」
美波は頷いた。「分かった。逆位相音も最大出力で流す」
二人は準備を始めた。でも凛の心の奥底には不安があった。
本当にこれでいいのか。母は間違っているのか。それとも――
でも引き返せない。美咲の願いを叶えるまで。




