表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムネモシュネの箱 ― 73Hzの永遠 ―  作者: 大西さん
第四章「カセットテープの記録」
102/132

第101話「悪夢の夜」

12月7日 日曜日 午後11時。


凛はベッドに横になった。美波の作った逆位相音が部屋に流れている。でも効果は弱い。カセットテープの記録は複雑すぎる。73Hzだけじゃない。無数の周波数が絡み合っている。


凛は目を閉じた。眠ろう。明日のために体力を回復しないと。


でもすぐに夢を見た。


防音室。真理子がピアノを弾いている。


でも今回は演奏しながら崩れていく。指が鍵盤から離れる。身体が前に倒れる。


「いや……私が消える……誰か助けて……美咲……正臣……誰か……」


でも誰も助けに来ない。真理子は床に倒れたまま動かなくなる。


そしてその身体から何かが立ち上がった。


透明な影。真理子の形をしているが実体がない。幽霊? いや、違う。


これは記録。真理子の意識の記録。身体から分離した純粋な情報。


その影が凛を見た。


「あなた……次はあなたの番……記録される番……こっちに来て……一人じゃないわよ……みんなここにいる……」


影が凛に近づいてくる。手を伸ばす。冷たい手。


凛の頬に触れる。


その瞬間――凛の頭の中に無数の声が流れ込んできた。


「助けて」「痛い」「消えたくない」「一人じゃない」「幸せ」「永遠」「73」「73」「73」


すべての声が重なり合って一つの轟音になる。


「いやあああああっ!」凛が叫んだ。


「凛!」


美波が凛を揺さぶっていた。強く。


「起きて!」


凛は目を開けた。自分の部屋。いつもの天井。


夢だった。でもあまりにもリアルだった。そして頬が冷たい。まるで本当に何かに触れられたような。


「大丈夫……?」美波が心配そうに見る。


「夢見てた……真理子が記録になって私に触れた……」


美波が凛の額に手を当てた。「熱い……38度くらい……」


確かに凛の身体は熱かった。記録の影響。身体にも出始めている。


「水飲む?」


「うん……」


美波がコップに水を注いで凛に渡した。凛は一気に飲んだ。冷たい水が喉を通る。少し落ち着いた。


「時間は?」凛が聞いた。


「午前3時」美波が答えた。「まだ夜中……もう少し寝た方がいい?」


「ううん」凛が首を振った。「もう眠れない……夢が怖い……」


美波は凛の隣に座った。「じゃあ朝まで起きてよう。一緒に」


凛は美波の優しさに救われた。この人がいなければ、とっくに壊れていた。


二人は朝まで話していた。他愛もない話。大学のこと。趣味のこと。好きな音楽のこと。記録とは関係ない話。


それが凛を正気に保った。


窓の外が徐々に明るくなっていく。長い夜が終わろうとしている。


でも凛の心拍数は相変わらず80回/分。記録は進行し続けている。止まることなく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ