4話 現状と現実
この世界の女性は戦わない。
薄々気づいてはいたが、その現実を叩き付けられた日。
その日、私はこの世界についての情報収集の為、父の部屋で本を読んでいた。そしてそこで、冒険者という職業があることを知ったのだ。
まず大前提として、この世界には魔物と呼ばれる脅威が存在する。
この村を囲う森の中にも出たりするらしい。
「ダンジョン」という地下迷宮に潜む個体が極めて強力かつ特殊らしいが、地上に蔓延る魔物もまた脅威には違いなかった。
そんなのがうようよいるもんだから、大昔の人間はなかなか土地を拓け無かったとのこと。
そこで、数百年前に生まれたのが冒険者という職業だ。
冒険者は魔物の脅威を払いながら土地を開拓。地図を広げる。
さらに、各地に存在するダンジョンを攻略し、その土地の安全を確保。
また、ダンジョン内で採った特殊な鉱石や物資などを、都市の発展の為に納品する。
これが冒険者の主な仕事内容だ。
非常にスリリングな職業。だが、それだけ危険だからこそ自身を成長させてくれるだろう。
それは前世での最後の続き。
私は前世でようやく前へと踏み出せたのに、その先へ歩みを進める事は叶わなかった。叶わないのだと思い込んでいた。
しかし、現実にはシャロンとしてこの世界で再び生を得た。
ならばやる事は一つ。私はあの日踏み出した先へと進みたい。しかも今回は、冒険者などという最高にワクワクする道だ!
と、思っていたのだが
「ん〜、確かにやりたい事をさせてはやりたいが、シャロンは女の子だからなぁ……。それに〈スキル〉だって……。」
父に冒険者になりたいと伝えたところ、微妙な反応をされた。
どうして?と尋ねると、ウンベールは伝えるのが辛いのか、苦い表情をしながら答えた。
「女の子はな、戦えないんだ。」
詳しく聞くとこういう事だ。
まず、人間含む全ての生命は体内に「魔力」を持っている。
そしてそれは、「魔力波」と呼ばれる目に見えない形で、常に少しずつ体から漏れ出てるらしい。
ここで問題なのが、人間の魔力波は男女で別々の波長をしている点だ。
男性の波長は荒々しく、女性の波長は穏やか。
よって、行使できる魔法の種類も男女で異なるとのこと。
男性は戦闘向けの攻撃的な魔法に長け、女性は創造魔法等の生産系の魔法に長けている。
「じゃぁ、私は創造魔法で工夫して戦うよ。」
大した問題じゃない。強がりでもなく本気でそう思ったのだが、
「いや、もっと致命的な事がある。」
ウンベールは続けた。
「さっきも言った通り、魔力波は常に体から漏れ出ている。これは魔物でも同じだ。しかも、魔物のそれは人間のより遥かに荒々しい。だから、女性の穏やかな波長ではこれを相殺できず、近くに居るだけで息が苦しくなり、立っていられないんだ。」
心底暗い顔をするウンベール。
生まれて初めて成りたいものを口にした娘に対し、現実を伝えなくてはいけない親はさぞ辛いだろう。だがーー
「あ、それなら多分問題ないよ。」
「えっ?」
最初に述べた通り、私はそれについては薄々気づいていた。
なぜなら、村の住人達の中でも特に女性陣は、周辺の森に絶対に近づこうとしないからだ。
そこで一つの疑問。前世で男だった人間が魔物と相対したらどうなる?
普通に考えれば、女性の体なのだから私の魔力波も穏やかな波長だろう。
前世で女みたいと言われ続け、実際に今の体は心にフィットしている。
だがしかし、こちとら男性としての人生の方がまだ長い。
前にこっそりと森の奥へ入り、眠っている魔物に近づいた事があった。
結果として、めちゃくちゃ足は竦んだが、息が詰まったり立てなくなる程ではなかった。
口頭でそれを伝えても、信じては貰えないだろう。そう思い、ウンベールの手を引っ張る。
「ついてきて!」
「え?ちょ、おいっ」
頭に浮かべた疑問符が取れないままのウンベールを連れて、森へと向かった。
ーーーー
到着して直ぐに大きな熊の様な魔物に襲われた。
「危ねえ!」
ウンベールが剣を取り出し、私と魔物の間に割って入る。
魔力によって体を強化し、重い一撃で敵を討伐した。
正直、想定してたより足が震えた。
寝ている時と起きている時で、こうも違うとは。しかし、呼吸は正常だし立ってもいられる。こんなところで歩みを止めてたまるか。
「シャロン、お前ホントに平気そうだな……。」
ウンベールが信じられないものを見た表情で近づいてきた。そして、膝をついて目線を合わせ、私の両肩を掴む。
「どうしてそんなに冒険者になりたいんだ?」
真面目な声色で尋ねてくる。それに対し、私は笑顔で答える。
「ん〜、進み始めた私は誰にも止められない!みたいな?」
「…………。」
唖然とするウンベール。
別の言い方をするべきだったかなと思ったが、
「ハハッ、我が娘ながらよく分からんな。」
笑って、ウンベールは立ち上がった。腰に手をやり私を見つめる。
言葉の意味はともかく、誠意だけは伝わったらしい。
「お前の気持ちは分かった。だが、冒険者を目指すには条件をクリアしろ。」
「条件?」
身体ごと頭を横に傾け、聞き返す。
「ああ条件だ。今日から俺と毎日一対一で戦って、俺に一撃でも当ててみせろ。
冒険者の資格を得られるのは17歳からだ。それまでに一撃当てられたら、冒険者を目指す事を認める。当てられなかったら、冒険者は諦めて違う道に進むんだ。」
ウンベールなりの、最大限の譲歩だろう。
「分かった!でも、手加減はしないよ?」
「俺のセリフだよ、まぁいいいや。」
森へ来たと時とは違い、今度は同じ足並みで横並びに帰路につく。
「さぁ、とっとと帰ろう。シャロンを森へ入れたって母さんにバレたら、殺されちまう。」
こうして、私とウンベールの日課が始まった。




