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18話 戦闘服

「はぁっ!」


掛け声と共に黒刀を振り下ろす。

渾身の力を込めたそれは、漆黒の軌跡を描きながら、眼前の魔物を切り裂いた。


「はぁ…はぁ…今日は…こんなところかな。」


呟き、刀身を鞘へ納める。


現在地は訓練用ダンジョン地下四階。

冒険者見習いになってから2週間でこの進捗である。


これだけのペースで進んでいるのだから、最下層の十階も直ぐに到達できる……と思っていたのだが。


「ふぅー、一気に魔物が強くなってきた。しっかり休まないと、考えずに癖だけで動いたら死ぬな、これ。」


息を整えると、影の中から魔力を通じた声が聞こえてきた。


『パーティーで挑む前提の難易度ですからな。そもそも、一人で四階層まで来れてるコトに驚きですぞ吾輩は。あ、今の魔物七ポイントっと。』


時折茶々を入れつつ、私のポイントを管理してくれるハンゾウ。

スカートの中に強い視線を感じるが、気のせいだと思うコトにする。


「この四階層は突破にかなり苦労しそうだな。一ヶ月は必要かも。他の人達の進捗ってどんなもん?」


『殆どは二階層の終盤で足踏みしてますぞ。ただ、既に五階層まで進んでる者が二人いますな。こいつらやっべぇ〜。』


「もう五階!?早すぎだろ!」


『魔力探知故詳しいことはわかりませんが、手際のよさからどうも歴戦の傭兵上がりなようで』


そりゃ強いわ。

私も早い方だとは思ってたけど、上には上がいるらしい。


しかし教官だけでなく同期にもそんな人達がいるとは、なんと恵まれた環境だろうか。


「んふ、んふふふふふ。」


『あのー、シャロン嬢。どうされました、綺麗な顔に似合わない変態みたいな笑い方して……。』


「変態ってお前には言われたくない。あぁいや、幸せだなって思ってさ。」


『幸せ?格上が沢山いるのに?』


「それがいいんだよ。格上がいるってのは、強さにはまだまだ先があるってコトだろ。実際に自分がそこまでいけるかは分からないけどさ、目指す過程で少しでも成長できるのが、堪らなく嬉しいんだよ、私は。」


だってそれは、前世でずっと焦がれていたモノなのだから。


『………変態ですな。』


「だからお前には言われたくないって。」


『その見下したような冷たい眼!やはり滾りますなぁ!ムホォー!』


興奮した使い魔は無視して帰路につく。

戦闘中は静観してくれるし、話し相手にもなるから良い使い魔なんだけどね。ほんと。


『ところでシャロン嬢。』


「今度はどうしたのさ。」


『見たところ、着用しているのは一般的な衣服と同じですが、戦闘服はどうされた?』


指摘された通り、私が身に着けている服は村でのものと同じである。シンプルな長袖に黒のスカート。ニーハイソックスと革製のブーツが私の基本なスタイルだ。


だが、戦闘服って何だ。

そんな物騒な服装、漫画でしか聞いたことないぞ。


『戦闘服とは魔力が込められた戦闘用の衣服ですな。普通の服より丈夫かつ動きやすい。というより、その服のままだといつか服を焼かれて裸になりますぞ?吾輩は嬉しいですが流石に男所帯で女性がそれは……』


「別にそれくらいいいけど。」


そもそも、ダンジョン内ならあまり人目もないしねぇ。

動きやすいからスカート履いてるんだし、今さら露出の一つや二つ。


『なるほど……シャロン嬢は露出魔と…メモメモ…。』


「よし、今すぐ戦闘服買いに行こう。何処で手に入る?」












「というワケでザッパ教官、戦闘服が欲しいんです。」


「入ってくるなり早々、何が『というワケ』だ。」


ダンジョン帰りの私が尋ねたのはザッパ教官の執務室。

意外にもオシャレな装飾を付けた一室で、教官は長机に向かって書類とにらめっこ。


丸い頭を片手で撫でながら、憂鬱そうな様子である。


「悪いが、書類作業に忙しくてな。流石に今日は付き合えんぞ、じゃじゃ馬娘。」


「ひどい!じゃじゃ馬娘なんて!こんなにお淑やかなのに!」


「どこがお淑やかだ!毎日毎日飽きずに挑んできよって!負け続けてもケロんと立ち上がるとかアンデッドかキサマは!」


「……………」


「あ、いやスマン言い過ぎたな。ほら、美味い店の菓子だぞ。食うか?」


「いっただきま〜す!」


戦闘中は殺意剥き出しなのに、普段はこのチョロさ。

この二週間、ダンジョン終わりにザッパ教官に挑み続けて分かったコトが一つある。

なんだかんだ言って、この人は優しいのだ。


毎度律儀に付き合ってくれるし、今だって忙しい中こうして対応してくれている。

根が善人なのだろう。きっと。


「それで、戦闘服だったか。」


「何処で買えます?」


「あれは『学園』に発注してそこの生徒が創る物なのだが…かなり値が張るぞ。」


「……おいくらくらいですか?」


「安くても金貨二十枚!俺の給料一年ヶ月分消し飛ぶな!ガァハッハッハ!」


まじですか。

ただでさえ生活費に困ってるのにそれは…払えないな。


「……だがまぁ、有り物で良ければ少しは見繕えるぞ」


「ほんとですか!」


「あぁ、衛兵用の隊服が余っていてな。古いデザインのもので今は使われていない。確か試作段階でサイズが小さ過ぎたものと大きすぎたものがこの押し入れに……あったぞ、これだ。」


教官が取り出したのは二着の衣類。男性が着るにしては小さな黒い軍服と、一転して袖まで手が届かないオーバーサイズのコートである。


試しに軍服を試着してみたところ、私のサイズにピッタリだった。コートは大き過ぎるが、防御力の足しになれ良いし、袖を通さず両肩で羽織っておこう。


「こんなに良い物、本当に貰っても?」


「どうせ誰も使わんからな。しかし、これだと上半身だけだな…。いくらなんでもスカートはないぞ。」


「『学園』に友人がいるので、その子に相談してみます!ありがとうございます!」


「女性ならではの繋がりだな。なに、気にするな」


やはり教官は優しい人だ。

少し話した後改めて礼を言う。忙しそうなので早々に退室しようとしたところ、「シャロン」と呼び止められた。


足を止め、振り向く。

私を見る教官の眼差しはいつになく真剣だ。


「期待して待っているぞ。キサマが、()()()()まで昇ってくるのを」


「………はい!!」


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