12話 男・男・男
カニス君と共に足を踏み入れたギルドエリアは、明らかに他の区画と雰囲気が異なっていた。
景観こそ居住区と変わらないが、ピリッと張り詰めた空気が漂っている。
通行人の誰もが周囲を警戒しており、日常的に命の危険がある緊張感が伝わってくる。
なんだか、故郷の森を思い出すな。
少しの気の緩みが命取りになってしまう、常に自分の生死に指がかかっている様な感覚は久しぶりである。
だが、不思議と嫌な気はしない。
森に入り浸っているコトが多かったからか、今やこの空気感のほうが慣れ親しいし、私に合っている。
むしろこの街に来てから一番居心地がいい気さえしてきた。
「フフフ〜ン♪〜♪〜」
「だから危ねえスって!シャロンさん!」
「大丈夫だってば。何回も説明したでしょ?」
「いやいや信じられるワケねぇッスよ!女性のシャロンさんが実は魔物の魔力波の影響を受けなくて、しかも冒険者になろうとしてるとか、普通じゃあり得ねぇッスよ!」
「アッハッハ。確かにねー。」
「笑い事じゃねぇッスって!」
歩みを止めない私を必死に引き留めようとするカニス君。
まぁこの世界だと大抵はこういう反応になるのだろう。
「それに、このギルドエリアじゃあ一般的な常識は通用しねぇって話ッスよ!男だけの世界に必要なのは力だけ。そんな無法地帯に女性が入ったらどうなるか」
カニス君の言葉を聞いて、周囲を見渡してみた。
女性は私しかおらず、何処を見ても男性しかいない
左には男、右には男、前には男。辺り一面男、男、男。
珍しさ故か、その大半が私に目を向けている。
バレないようチラリと覗き込む者もいれば、あからさまにゲスな目線を送ってくる者もいる。
肉食獣の群れに紛れ込んだ小動物の様なモノだろう。
誰が最初に話しかけるか、お互いに視線で牽制し合っている。
ゲスな視線を送ってきていた内の一人が、こちらへ近づいてきた。
「おい嬢ちゃん、女がこんな所にいると危ねえぞ?そこの弱そうな彼氏よりも俺が守ってやるよ。当然、お礼はしてもらうがなあ。」
話しかけてきたのは小太りの中年男性だった。
清潔感の無い髭を蓄え、汚い腹を露出させている。
品定めをする様な視線で、私の頭からつま先までをゆっくりと捉えてくる。
「グヘヘヘ。良い身体してんじゃねぇか嬢ちゃん。」
涎に濡れた声を出しながら更に近づいてくる男性。
その時、私と男性の間にカニス君が割って入った。
「黙って聞いてりゃあアンタ、さっきから無礼にも程があるッスよ。」
「あ?誰だよテメー、正規の冒険者様に逆らおうってのか?男に用はねぇんだよ。」
邪魔をされた男性が額に筋を浮かべる。
一触即発。
今にも喧嘩が始まってしまいそうである。
そうなる前にと思い、手を前に出してカニス君を制止させた。
「ちょ、シャロンさん!」
「いいから。」
後へと下がらせ、再度私と男性が向き合う。
「お、えらく従順だな嬢ちゃん。ヘヘっ、案外モノ好きってことか?可愛いじゃねぇか。身体は細せーのに揉み心地が良さそうなモンが二つも」
言いながら胸元へ伸びて来た手を、下から力強く弾いた。
パンッと甲高い音が街に響く。
「なっ!」
私は流れるように男性の手首を掴み、ずっしりとした身体を背中で持ち上げる。
一連の動作の刹那、男性と眼が合った。
「なっ……なんだその眼の紋様!?光って」
言い終える前に、ふくよかな身体を投げ飛ばす。
前方へと背負い投げた巨体が、勢い良く建物と衝突した。
「ガハァッ!」!
バカでかい衝撃音と共に、土煙が舞う。
煙の先で、男性がぐったりと倒れた。
幸いなコトに建物は無事であった。
魔獣に備え、頑丈な作りになっているのだろう。
まぁ逆に言えば、それだけ硬いところヘ投げられたというワケで、あの男性はしばらく起き上がれないとみていい。
「お、おいあれ…。」
事の顛末を眺めていた通行人達がザワめき出した。
気づけば辺りに人だかりが出来ており、注目が私に集まっている。
「フゥーー」
私は大きく息を吐き、先程ゲスな視線を送ってきていた周囲の男性たちヘ、挑発的な表情を返す。
「アンタら、私とヤリたいんだろ?いいぜ相手になってやる。全力でかかって来いよ。」
まったくカニス君め。割って入ってきた時はビックリしたぞ。
せっかく戦えるんだから、私がやりたいっての。
しかし、そんな私の考えとは裏腹に、ギャラリー達は一目散に去ってしまった。
「何で逃げるんだよ!?……ったくもう……行こうぜカニス君」
「ちょ、ちょっと待ってください!なんスか今の!?鮮やか過ぎて頭の処理が追いつかねえんスけど!?」
「言ったでしょ?私は女だけど戦えるって。ほら、急がないと置いてっちゃうよー。」
「直ぐ行くッス!ってかずっとついていくッス、シャロンの姉御!」
「姉御って……カニス君の方が多分年上でしょ。まぁ何でもいいケド。」




