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第23話 認識のズレ

『それでは明日、お迎えに上がります』


 そう返事が届いたのは、エリファーが手紙を出してから間もない頃だった。

 封を切る前から分かる――今度はちゃんとヴェルディの直筆だ。文字が無駄に丁寧で、ところどころ筆圧が強い。


「……で、何時に来るかは書いてないのね」


 肝心な情報が抜け落ちているあたり、実に彼らしい。

 仕方がないので、エリファーは朝から準備することに決めた。


「聖女様〜、もう夜遅いですから寝てください」


 ルフィーネはそう言いながら、エリファーの髪を丁寧に乾かし、櫛で梳いていく。

 寝癖防止のため――という名目だが。


(どうせ、つく時はつく)


 エリファーはされるがまま、大人しくしていた。



 そして翌朝。


「んぅぅあァァア……ふわぁぁぁぁ」


 大きなあくびを噛み殺しきれずに漏らしているのはエリファー本人だ。

 今日は珍しく、自力で起床できた。奇跡である。


「聖女様は〜、こんな洋服はいかがでしょう?」


 ルフィーネが意気揚々と差し出してきたのは――


 宝石がこれでもかと縫い込まれた、ギラッギラのゴテゴテドレス。


 スカートは重そう、胸元は眩しい、装飾は過剰。

 さらにアクセサリーは瞳の色に合わせたイヤリング。

 極めつけは――赤いリボンに、赤系のスカート。


(……ヴェルディ)


 エリファーの脳裏に、昨日のヴェルディの姿がよぎる。


(意識してるみたいじゃない。絶対絶対絶対イヤ)


 しかも今回のデートはお忍びである。

 こんな格好で街を歩いたら、秒で正体がバレる。


「却下」


 即断だった。


 エリファーが自分で選び直したのは、

 白いブラウスに緑色のペンダント、黒いコルセット、そしてふわりとした白いスカート。

 イヤリングも控えめに付ける。


(デートとはいえ、仕事は仕事)


(ちゃんとしないと)


 ――そもそも、デートって何をするんだろう?


 そんな疑問が浮かんだ瞬間。


「よ!エリファー」


 迎えが来た。


 そこに立っていたヴェルディは――

 とにかくキラキラしていた。


 服装、髪型、姿勢、全部が「本気」。

 公爵家の気合が、そのまま人型になったようなオーラだ。


「じゃあ、行こう」


 自然な流れでそう言われ、エリファーは首を傾げる。


「……なんで馬車なんですか?」


「え?」


「今回はお忍びデートでしょ?」


「……え?」


 ここで、完全な認識のズレが発覚する。


 よく見れば、エリファーは異性とのデートとは思えないほど動きやすい服装だ。

 一方ヴェルディは、公式行事レベルである。


「エリファーは……今から、どこへ行くつもりだったんだ?」


 ヴェルディが困惑した表情で尋ねる。


(まずい)


(これはまずい)


 幼なじみ(?)とのデートとはいえ、これは条件付きの仕事。

 完璧にこなさなければならない。


 しかし前世を含めても、デート経験ゼロのエリファー。当然、正解が分からない。


 ヴェルディも困っている。

 エリファーも困っている。

 ついでに、馬車の馬まで困った顔をしている気がした。


「でも、デートって……歩くものじゃない?」


「……歩く!?」


 ヴェルディの声が裏返る。


「一緒に、歩いてくれるのか!?」


「え? デートって、二人で横並びに歩くものでしょ?」


 もう埒が明かない。


 結局。


 ヴェルディは馬車を返し、ルフィーネにも下がってもらい――

 二人は徒歩で市場を散策することになった。


 公爵家同士の、史上最も認識が噛み合っていないデートが、こうして幕を開けたのである。

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