第15話 宝石綺麗ですねー
「この私に護衛の仕事とはね……。久々に腕が鳴るわ」
そんなことを考えていたエリファーのもとに、一本の通信が入った。
『やあ、エリファーくん! 制服の手配をしたいんだけど、今からサルベロット家本邸に来られるかな?』
「分かりました。今から向かいます」
通信を切ると、すぐに支度を整える。
「お嬢様、これからサルベロット家へ?」
「ええ。護衛としてルフィーネを同行させるわ」
「了解しました」
――私立ベネリア学園。
中高一貫の名門校であり、名門どころかこの国のトップクラスの貴族しか通えない、正真正銘のお嬢様学校だ。
もっとも、ヴァロイアント家聖女は成人するまで素顔と名前を隠すという掟があるのだ。
彼女の素顔を知る者は、ヴァロイアント家関係者と一部の公爵家のみ。
しかも、ヴァロイアント家の情報を外に漏らせば――たとえ公爵家であろうと容赦なく潰される。
つまり。
「……私が聖女と同一人物だって、誰も気づかないわけね」
だからこそ、サルベロット家はこの仕事を彼女に任せたのだ。
そんなことを考えているうちに、馬車はサルベロット家本邸へ到着した。
「聖女様、酔っていませんか?」
「大丈夫よ。山道でも酔わないタイプなの」
「それは何よりです」
ルフィーネとそんな会話をしていると、サルベロット家の使いの者が近づいてきた。
「こんにちは、ヴァロイアント様。
ダレス様とアリサ様がお待ちです」
「今行くわね!」
エリファーは馬車から軽やかに飛び降りる。
その様子を、ルフィーネは微笑ましく見守っていた。
一方、使いの者はというと――
『早くしてくれないかな』と言わんばかりの表情である。
「ところであなた、いい趣味してるわねぇ。さすが公爵家の使い。
特にそのペンダント! 十五カラットね!」
突然の指摘に、使いの者は言葉を失う。
「……あ、ええ。ご主人様が宝石好きでして……」
「分かるわ~!」
完全にスイッチが入ったエリファーは、そのまま語り出した。
結果――
宝石談義が止まらず、一時間経過。
「……到着予定は何時だったかな?」
「十二時、です」
「……今は?」
「十三時です」
ダレスは笑顔を保ったまま、ぴくりとこめかみを引きつらせていた。
一方のエリファーは、ほぼ土下座に近い勢いで頭を下げている。
とてもこの国の聖女とは思えない光景だった。
「エリファーちゃん! 採寸しよ!」
声をかけてきたのは、サルベロット家三女のアリサだ。
彼女は裁縫が得意で、プロと見紛うほどの腕前を持つ。
そのため、今回は制服制作担当として呼ばれていた。
「では採寸しますね。男性陣は外へ」
珍しく辛辣なアリサの一言で、男たちは即退散。
「とりあえず、全部脱げばいい?」
「下着は着て」
軽口を叩きながら、アリサはメジャーを取り出す。
「エリファーちゃん、意外と軽いのね。
今まで測った中で一番よ」
「普段は腰回りに詰め物してるし、厚着だからね。……そんなに?」
「正直、心配になるレベル」
三十分後。
「採寸終わり! これから制服を手配するわね」
「ありがとうございます。あ、そういえば……」
ふと思い出したように、エリファーは尋ねた。
「サルベロット家の三男さんのお名前は?」
「言ってなかったっけ?
レイ・サルベロット。十六歳よ」
「……同い年ですね」
「ええ。エリファーちゃんと同じ学年」
「教えてくださって、ありがとうございます」
その時、扉がコンコンと鳴った。
「そろそろ、いいかな?」
ダレスの声が廊下に響く。
「はい、もう大丈夫です!」
扉一枚を隔てて、会話が交わされるのだった。




