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第13話 胃が痛くなるっつーの

「ぐへー……ひと仕事終わったわー。これからもう一件かぁ」


レイ以外の奴隷達はエリファーが管理、運営している孤児院に預けた。

あの孤児院の大人達はヴァロイアント家の中でもごく一部エリファーが信用している人達だけで構成されているから安心出来る。


「次はあそこかぁ」


思わずだらけた声が出る。

次の目的地を思い浮かべた瞬間、胃のあたりがキュッと痛んだ。


(うっ……次、あそこか……)


なんでうちの国、こんなに癖の強い貴族が多いんだよ!?


最後に残っているのは――

公爵家のサルベロット家。


名実ともに、悪役レベルの“悪魔一家”である。



「こんにちは。手紙を送った、ヴァロイアント・リリー・エリファーです!」


扉の前で名乗ると、中から間延びした声が返ってきた。


「はーい! いまから出まーすぅー」


……さてさて。

ここで皆さん、「悪役令嬢が出てくる展開」を想像しましたよね?


――残念。


「きゃぁー! エリファーちゃーん! 本物ー! 久しぶり♡」


「……なんだこいつ、語尾にハートつけやがって」


「聞こえてるよー?」


満面の笑みで飛びついてきたのは、

サルベロット家三女――アリサ・サルベロット。


私より一つ年上だ。


(……まぁ、悪い人じゃないんだよなぁ)


ただし、ちょっとサイコパスなだけで。


噂も大げさに尾ひれがついてるんだろうし、可哀想といえば可哀想で――


「ねぇねぇエリファーちゃん。すっごく寂しかったの〜」


そう言いながら、彼女はにっこり笑って――


解体(バラ)していい?」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! 何何何!? ちょっと待って!?」


その手に握られていたのは、

サルベロット家御用達のよく切れる包丁。


今この瞬間、確実に私に向けられている。


――説明しよう。


アリサは、一定以上親しい関係になると、

相手を「脅してでも自分のものにしたい」という支配欲が異常に高まる。


これが、彼女の性癖である。


なお、幼い頃からその性格のせいで陰口やいじめを受けていた彼女をエリファーが庇ったことがきっかけで、家族ぐるみの付き合いになった。


……なった結果が、これだ。


「……可哀想とか思ってごめんなさい。全部ほんとでした」


「何ぶつぶつ言ってるのよ」


冷たい声が割って入る。


サルベロット家長女、レイナ・サルベロット。


この人は――

自分が殺されることすら幸福に感じる究極のドMである。仲良くなると「鞭でたたいてぇーー!!」と追いかけてくる。


「この人、やばいぃぃ……」


さすがの私も、言葉を失った。

普段のおしゃべりが嘘のように、完全に置物状態である。


「おい姉さん、やめてやれよ」


助け舟を出したのは、サルベロット家長男――

ダレス・サルベロット。


この男は、サルベロット家の中で唯一、

「若干」常識があるサイコパスだ。


監禁欲は強いが、常識があるので実行はしない。

……しないだけだ。


(雰囲気が……怖すぎる)


本当に怖い。

怖い。怖い。怖い。怖い。

恐怖の権化とは彼のための言葉だと思う。


「……なにか?」


「なんでもないですっっ!!」


秒で目を逸らした。



さて、本題。


「それで……要件は?」


「はい。実は……」


――説明開始。



一時間後。


ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。


「なるほど。既に公爵家のほとんどが承諾しているのですね」


ダレスが静かに頷く。


「はい」


こうして、

サルベロット家という最難関ミッションは、

意外にも穏便に――


(たぶん)


終わりを迎えようとしていた。


――なお、精神的疲労は過去最大である。

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