第9話 魔石とハルツ家
「聖女様!」
「どうしたのよ、ルフィーネ」
「大変ですぅ!! 実は……! 貴族による買い占めで、魔石の流通量が大幅に減っているそうなんです! 解決をお願いしたいと、鑑定士の方が――」
「なるほど」
そこへ一人の青年が頭を下げてきた。
「聖女様、初めまして。私は鑑定士のライン・ベーゼと申します」
「で、私にどんな解決を望んでいるのですか?」
「……はい。できれば貴族への魔石の買い取り量を抑えていただきたいのです」
「なるほど。明日は休みですし、行ってみましょう」
「ありがとうございます!」
屋敷を出ていく鑑定士の背を見送りながら、エリファーは小さくため息をついた。
――貴族に頼んだところで解決する問題じゃない。
魔石の流通が減った原因は、単純に世界的な生産量の減少だろう。
購入量の記録を見ても、十年前と今で大差はない。つまり、問題は買い占めではなく供給側にあるのだ。
魔石は高い魔力を持つ者でなければ生み出せない。
我が国ではその力を持つのはほぼ聖女のみ。つまり、基本は輸入に頼っているのだ。
「ロイアント。わたし、貴族の屋敷に行ってくるわ」
「では、ルフィーネを護衛に?」
「いいえ、私一人で十分です」
「……そうですか。では夕食を用意してお待ちしております」
「ええ、行ってくるわ」
⸻
やがて目的の屋敷に到着し、コンコンと扉を叩く。
「はい、どちら様でしょうか?」
「こんにちは、マルツ様」
「!? あなたは……聖女様!?」
「少しお話をよろしいかしら」
「ど、どうぞこちらへ」
⸻
事情を説明すると、マルツ家の長女は困ったように目を伏せた。
「……すまないが、それは無理です」
「えっ?」
「その魔石がなければ、弟を助けられないのです!」
「弟さんが?」
「ええ……弟は幼い頃から身体が弱く、魔石の力で症状を抑えてきました。しかし最近は状態が悪化し、寝たきりに……。今では一度に二百個もの魔石を使わねばならなくなったのです」
「二百個……!?」
思わず息をのむ。魔石一つが千ドル。さらに生産時間は一つにつき三時間。到底まかなえる量ではない。
娘は唇を噛みしめながら続ける。
「だから私は、自分の生命力を削って魔力を分け与えてきました。そのせいで……十四歳から成長が止まってしまったのです」
「……!?」
確かに彼女は幼い印象だ。だが記録によれば、先月十九歳の誕生日を迎えているはず――。
「それ、私にやらせていただけませんか?」
「えっ!? でも……!」
「マルツ家は代々水属性の家系ですね?」
「……はい」
「私は光属性。癒しの力を持っています」
娘の瞳が大きく見開かれた。
「本当に……よろしいのでしょうか?」
⸻
病室に案内され、エリファーは衰弱した少年の寝顔を見下ろす。
掌をかざすと、柔らかな光が彼女の周囲に満ちていく。
「――〈光癒〉」
淡い光が弟の身体を包み込み、濁った魔力が一瞬で浄化されていった。
やがて少年の頬に赤みが差し、弱々しかった呼吸も安らかに落ち着く。
「……っ!? 弟が……!」
長女の目に涙があふれる。
「これでもう、大量の魔石は必要ありません。症状を抑えるのではなく、癒すのですから」




