廃工場
僕は、ジウジアーロがデザインしたスズキキャリィバンデラックスの群れに引かれそうになりながら町外れの廃工場に辿り着いた。工場の入口は錆びつき、長らく使われていないことを物語っている。だが、ここが唯一の希望だった。
工場内に足を踏み入れると、薄暗い照明が点在し、機械のかすかな音が耳に届く。奥からは低いエンジン音が聞こえ、何かが動いている気配がする。慎重に進むと、突然、薄暗い部屋の中から声が聞こえた。
「来たのか…」
声の主は、かつての車のエンジニアだった老人だった。彼の顔には疲労と絶望が刻まれている。しかし、その目には一縷の希望が宿っていた。
「あなたが…鈴菌の治療法を知っていると聞いて…」
僕は必死に言葉を絞り出した。老人は深く息を吸い込み、ゆっくりと頷いた。
「確かに、ある方法はある。しかし、それは非常に危険で、成功する保証はない。それでも試す覚悟はあるか?」
僕は迷うことなく頷いた。カオリを取り戻すためなら、どんな危険でも冒す覚悟だった。
老人は古びた机の引き出しから一冊の古いノートを取り出した。そこには、複雑な数式や図解がびっしりと書かれていた。
「この薬品を使えば、鈴菌を制御し、人間の姿に戻すことができるかもしれない。しかし、時間が限られている。急がなければならない。」
僕は老人の指示に従い、廃工場の奥へと進んだ。そこには、かつての研究設備が朽ちかけながらも、まだ動いていた。老人と共に薬品を調合し、カオリに投与する準備を始めた。
カオリを元の姿に戻すための戦いが、今、始まろうとしていた。成功するかどうかは分からない。しかし、僕は希望を捨てるわけにはいかなかった。