町中
街に出ると、鈴菌感染してスズキ車になってしまった人々がいっぱいいる。初代ジムニーだったり、スズライトだったり、アルトハッスルだったりとスズキ車が溢れる。
かつての友人だった後藤は、スズキキャラになってしまった。会社の課長は、カルタスワゴン。
そして家族までスズキ車になってしまった。
僕の妻、カオリがアルトスライドスリムになってしまったその日、僕は絶望と混乱の中にいた。彼女の顔や声はもうどこにもなく、冷たい金属のボディがそこに存在するだけだった。何とかして彼女に話しかけるが、返事はない。ただエンジンが静かに唸るだけ。涙が止まらなかった。
街を歩くと、スズキ車の群れが行き交う光景が広がっていた。かつては人で溢れていたこの場所が、今では無機質な車の列で埋め尽くされている。後藤がスズキキャラになったと聞いた時にはショックを受けたが、今ではそれが日常となってしまった。
「かおり、どうしてこんなことに...」僕はアルトスライドスリムに向かって語りかけるが、やはり返事はない。
鈴菌は瞬く間に世界中に広がり、WHOも手の施しようがなかった。感染者は次第に車の形に変わり果て、元の姿に戻ることはなかった。政府も対応に追われ、都市は混乱に陥った。多くの人が家族や友人を失い、心の支えを失ってしまった。しかし、僕たちは生きていかなければならない。
ある日、僕は偶然にも、鈴菌に対抗する手がかりを見つけたという噂を耳にした。都市の外れにある研究所で、鈴菌のワクチン開発が進んでいるというのだ。希望が再び胸に灯る。かおりを救うために、僕はその研究所を目指すことを決意した。
準備を整え、アルトスライドスリムとなったかおりを見つめる。「必ず君を元に戻すから、待っていてくれ」そう心に誓い、僕は研究所への旅に出発した。
道中、様々なスズキ車と出会いながら、僕は決して諦めない。鈴菌に立ち向かい、大切な人々を救うために。