9 選考基準は能力ではありません、あなたの人格です
その後もソウシは同じ事を繰り返した。
なにせ新人の領域を超えられないままくすぶってる者は多い。
これらを見付けては迷宮につれていく。
素人だった者達を探索者に仕立てあげていく。
レベルが上がり、生存者が増えていく。
それが一定の数になると、ソウシの存在もしられるようになる。
教えを請おうと押しかける者も出て来る。
それらにソウシは快く門戸を────開く事はなかった。
やってくる者達はたいていがロクデナシばかりだった。
行動力があるバカというべきか。
前世で見た最悪の人間と同類だ。
そんな奴等と関わりあいになりたくはなかった。
威勢が良い。
こういった者達の共通点である。
わざわざ押しかけてくるくらいだから、無駄に元気だ。
こういう人間をソウシは信用しない。
元気なだけだからだ。
何も考えず、突撃ばかり繰り出すタイプだ。
何も考えずに怪物に突進し、そして死ぬのはこういう人間だ。
だいたいにおいて、言う事を聞かない。
勝手な行動をとる。
指示や教えなど無視する。
迷宮での生き残り方を教えてもらいにきてるのに。
そんな奴等に何を教えろというのか?
時間の無駄でしかない。
そんな者よりも、ソウシは町でくすぶってる者達を見付けにいく。
ウダツの上がらない、地味な連中を。
見付けるのは簡単だ。
そういう奴等は路上でうずくまってるか、経験者の集団から追い出されてるものだからだ。
あるいは迷宮に来たばかりの者達。
自分たちが入れる集団を探してる連中。
そういう奴等に話しかけていく。
教え子達からの紹介というのもある。
類は友を呼ぶというか。
追い出されたり路上生活を余儀なくされる者は、そういう者達との繋がりがある。
そんな教え子を通してやってくる者達は、見所のある者ばかりだった。
地味で、物静か。
口数少ない。
見た目で目立つところがない。
素質や才能もない。
大人しい性質・性格。
そんな人間ばかりだ。
そんな者達を連れて迷宮へと向かう。
教えを伝え、やらせ、成果を少しずつ積み上げる。
下手に逆らわず、言われた事をこなそうとする。
おっかなびっくりに動きながらも、するべき事をなそうとする。
自分なりのやり方などを持ち出したりしない。
ただ、言われた事をやりとげようとする。
この先はどうなのか分からない。
上手くいきだしたら自分なりのやり方を通そうとするかもしれない。
特に考えがあるわけでもなく。
自分はこうしたいという思いだけで。
ならばそれはそれで構わなかった。
巣立った後にどうなろうとソウシの知った事ではない。
ソウシは最低限のやり方を。
やり方の根っこにある心得を。
これを伝えるだけである。
これらを教わったあとに何をどうするかは、受け取った教え子次第だ。
ソウシの責任ではない。
ただ、教えを受けてる間は伝えたやり方通りに動いてもらいたい。
不満はあるかもしれないが。
今だけは、とりあえずは。
その上で、どうしても嫌なら自分なりのやり方を探せば良い。
探す上で、ソウシの教えと照らし合わせれば良い。
それで上手くいくならそれで良い。
ソウシのやり方とて最善ではない。
もっと上手い方法もあるだろう。
また、一人一人の性格の違いもある。
体格や癖も違う。
それらに合わせたやり方を見付ければ良い。
それがソウシの教えより上手くいくかもしれないし。
成果が下がるかもしれない。
だが、自分の気持ちや思いに反する事を続けるのも辛く苦しいもの。
そんな事を続ければストレスになる。
そうなるくらいなら、多少は成果が落ちるにしても、自分のやりたいようにやる方が良い。
これまた前世でソウシが感じてきた事である。
どれだけ給料が良くても、肌に合わない仕事というのはある。
そこそこの給料でものびのびと働ける場所もある。
どちらが良いかはその人次第だろう。
だが、ソウシはのびのびと働ける場所の方が心地よかった。
反りの合わないところで働くほど苦痛な事はなかった。
もっとも、給料の良い職場など縁が無かったが。
不満をのみこめるほどの高給を出さないから、ならば気分よく働ける所を求めた。
どうせたいして給料は変わらないのだから。
迷宮につれていく者達にもこれがあらわれてる。
威勢の良い奴はいらない。
無口、口下手で良い。
元気があるより、陰気で根暗な方がよい。
そんな奴の方が存外素直に動いてくれる。
そして結果を出してくれる。
そんな人間が増えていく事で、迷宮には中堅層というのが形成されていく事になった。
新人や素人というほど初心者ではない。
だが、迷宮攻略の最前線に出るほど強くはない。
その間、迷宮の中間層あたりで活動する。
そんな者達だ。
こんな中堅層の中心にソウシはいつの間にいる事になった。