2 前世、日本人でしたというありきたりな話
ソウシは日本からの転生者である。
67年におよんだ報われる事のないろくでもない人生を終えて。
その記憶を持ったまま、ファンタジーな世界に生まれなおしてきた。
この前世の記憶や経験が役に立ったかというと悩ましい。
なにせ、常識からして違う。
日本の考え方が通用するわけではない。
迷宮と怪物が存在している。
魔術で超常的な力を発揮できる。
日本にないこういったものが存在してるのだ。
ソウシの経験などどれほど役に立つのかというもの。
それでも培った人生経験は悪いものではなく。
死なずに今まで生き残ってこれた。
飛び抜けて優秀な成果を出したわけではない。
無理せず生き延びる事を優先してきただけだ。
前世のように。
才能があればともかく。
凡人のソウシに英雄のような活躍など出来るわけが無い。
やれる事を淡々と繰り返すだけ。
何より、死なない事の方が大事だった。
一か八かの賭けなどしないように心がけた。
前世から得た教訓である。
出来ない事はやらない。
出世は目指さない。
昇給など期待しない。
今より楽な職場を探す。
そうでないならブラックでも今の会社にしがみつく。
もし今よりマシな所があれば、そちらに移る。
同じ薄給ならホワイトな職場が一番。
就職氷河期に巻き込まれたソウシの生き方だ。
マジメにやってもバカを見てきたのだ。
ならば力を抜いて、切り捨てられない程度に頑張るのが一番である。
能力があってもすぐに首を切られるのだから。
実際、そういう場面を何度も見てきた。
だからだろう、先ほどのような場面を見ると同情をしてしまう。
たとえブラックでも会社にしがみつく。
食い扶持を確保するために。
それが経験者にすがる新人と重なった。
「俺もああだったんだろうな……」
過去の自分と同じに思えた。
だからだろうか。
追い出された新人を何となく見ていて。
一人になったところで声をかけた。
不審者そのものだなと思いながら。
そして、柄にもなくお節介を焼いていった。
「見てたよ、今のやりとり」
強ばってる相手の顔。
これからの事を考えて絶望してるのが分かる。
「もし良かったらさ、俺と一緒に迷宮にいかないか」
何を言ってるんだろうと自分でも思った。